第2章 脱兎の如く
任務を終え、宿舎としてお借りしている長屋に到着すると、座卓の横に持ち歩いていた少しの荷物と日輪刀を置いた。
今回の任務の出来事で、私は今後自分がどう鍛錬を積めば良いか、改めて考える必要があるという結論に至った。なので私は、その件について、自分の師であるじいちゃんに文を送り、意見を賜ることにした。
戸棚に向かい、紙、筆、硯、そして墨を取り出し、それを持って部屋の真ん中に位置してあるちゃぶ台に腰掛ける。それから筆をとり、真っ白な便箋と向かい合った。
拝啓
桑島 慈悟郎様
元気ですか?善逸は相変わらず泣き言を言いながら頑張っていますか?私は何とか大きな怪我もすることなく元気に過ごせています。
実は今回、相談したいことがあってこの文を送らせてもらいました。和の話では、もうすぐ私の階級が上がるらしく、それに伴って任務の難易度も上がるから備えておいたほうがいいとのことで。階級が上がることは嬉しいし、こんなこと言うのは少し烏滸がましいけれど、そのことで仲間を余計な怪我から守れることにも繋がると思っています。さっき終えた任務でも、階級が下である私の意見を聞いてもらえなくて、そのせいで隊の隊長が後遺症の残る怪我を負うことになってしまいました。鬼の頸は切れたけど、結果として足という隊士としての大事な命を失わせてしまったのがとても心残りで。折角こんな耳を持っていて、仲間の助けになることが出来るのに、私はまだそれが満足に出来ません。
実はその時、炎柱様が救援に駆けつけてくれたんです。じいちゃんにしこまれたこの剣技と体裁きは褒めてもらえたのですが、私の致命的な弱点である力のなさを指摘されてしまいました。しかもその人、私の二の腕をもにゅもにゅと何度も何度も揉んできたんです。信じられます?いくら筋肉を確かめたいからって失礼過ぎだと思いません?上官じゃなかったら蹴りでも入れていたところです。愚痴になってしまいすみません。でも、指摘されたことはその通りだし、そこを補えない限り、私の限界はもうすぐそこで、成長が見込めないことも十分理解しています。なにか筋力をつける、もしくはそこを補ういい方法がないでしょうか?どうか知恵をお貸しください。
それでは、長くなってしまいましたがこの辺で。長期休暇がもらえるようになったら、じいちゃんに会いに帰ります。
敬具
荒山鈴音