第2章 脱兎の如く
そう言って去っていった後ろ姿に、形ばかりのお辞儀をし、去っていく音を聴きながら
「……絶対に飛ばしません」
私は独り、ぼそりと呟いた。
「お前、炎柱に声を掛けられるとは…凄いな」
そう言って声を掛けてきたのは私の話にまったく耳を貸してくれず、足首に深い切り傷を負わされたあの隊長だった。
「いいえ。私には…分不相応なお誘いですので」
私がそう答えると
「そんなことないだろう。…さっきはお前の話に耳を貸さずにすまなかった。きちんとお前のいうことを聞いていれば、こんな怪我…せずに済んだのにな」
そういいながら隊長は悔しそうに顔を歪め、包帯で応急処置を施してあるその右足首をじっと見ていた。
「…傷、かなり深いですよね?」
足が使い物にならないように仕掛けられた攻撃だ。きっとそれは神経にも届いているだろうし、そうなると後遺症も残る可能性が高い。
「そうだな。俺はきっと…もう今までと同じようには戦えない。隊士は…辞めるしかないだろう」
「……そうですか」
自嘲気味にそういう隊長に、なんと声をかけて良いかわからず、私が言えたのはたったその一言。
けれども隊長はパッと笑顔を作ると、
「だが俺は 隊を辞めるつもりはない!隠になって…お前達を助けてやる。俺にもまだ…出来ることはある」
決して光を失っていない目を私へと向けてくれた。
「その時は、頼りにさせてもらいますのでよろしくお願いします」
「任せろ。改めて…俺は苗場だ」
「私は…荒山です」
「荒山だな!おし!お前に負けないよう、これからは隠として頑張るぜ!」
そう言ってニカっと笑いかけてくれる隊長、改め、苗場さんに私も自然と微笑み返すことが出来た。
嫌な人って思っていたけど…そうじゃないのかもしれない。私の変な風に凝り固まった男の人に対する考えも…変えられるように…なれたら良いな。
そう思えた私は、ほんの少しずつだが成長できているのかもしれない。
こうして今回の合同任務は無事に終わりを迎えた。