第10章 奏でて、戦いの音を
それから空が白み出すまで調査をし、わかったことといえば、やはりときと屋に鬼の気配は感じないということ。足抜けが、ある時を境に増えてること。その足抜けに不信感を抱く人が多いこと。はっきり言うと大した成果は得られなかった。
あとはもう一つ。
やっぱり…普通の人だと通らないような細長い…道…なのかな?…建物の壁とか屋根裏…それに廊下とかから風が通る音を感じたけど…
ときと屋の庭に立っている高い木の枝に立ち、建物全体の様子を観察する。
小動物の通り道にしては広範囲すぎるし…風の音からして人が通れる広さとは思えない…やっぱり鬼と関係してるのかな?
私がそこに入り込めれば何かわかるかもしれないが、いくら小柄とはいえ骨格の都合上それは不可能だった。
…これじゃあ…何もわからなかったもの同然だな
天元さんが客として潜入していた時もあまり情報が得られなかったと言っていたので一筋縄ではいかないことは初めからわかっていた。それでもほとんど何の成果も得られない自分が情けなくて堪らなかった。
もう陽が昇る…部屋に戻ろう
はぁぁぁ
大きな溜息をひとつつき、私は杏寿郎さんの待つ部屋へと戻ることにした。
「戻りました」
肩を落としながら部屋に入ると、杏寿郎さんは私が出かけた時と同じ場所に座っていた。
「うむ!大事なさそうだな」
「はい。でも、特段問題がなかった代わりに、収穫もありませんでした。…あの…もしかして…あのままずっと寝ないで待っていたんですか?」
先程も述べた通り、杏寿郎さんは出た時と同じ場所で同じ姿勢でいるし、チラリと部屋に敷かれた布団を見てみるも、掛け布団も敷き布団も一切乱れた様子はない。
「もちろんだ。君からいつ連絡がくるかわからないだろう」
「もう!そんなのいいのに!」
僅かに怒りながら杏寿郎さんに近づき
「身体に何かあったらどうするんです!?まだお店を出なくちゃならない時間まで少しあります。せっかく敷いてあるんですからお布団で休んでください」
と、腕を引っ張り布団で休むよう促す。すると杏寿郎さんは意外にも大人しく私に腕を引かれ布団まで来てくれると、そのまま素直に腰掛けてくれた。