第10章 奏でて、戦いの音を
「俺よりも君の方が疲れているだろう?一緒に休もう」
そう言って杏寿郎さんは自身の隣をぽんぽんと叩く。
…任務中だけど…今日はもう動かない方がいいし…少しくらいはいいよね
杏寿郎さんの言葉に従い、私もその隣へと腰掛け、身体をピッタリとくつけた。その私の行動が意外だったのか、杏寿郎さんは私の顔を覗きこみ
「どうした?」
優しい声色で尋ねてきた。
「特に…意味はありません。ただ…こうしてくっついていたいだけです」
何でもない風を装ってそう答えたものの、"意味がありません"なんて嘘だった。
情報収集をしている間に、色々な男女を見た。ただ部屋で会話を楽しむ男女。お座敷遊びを楽しむ男女。そしてもちろん身体を交える男女。
たくさんの男女を見る中で(もちろん好き好んで見たくなんてなかったが)、ふと気になったことがある。
杏寿郎さんも…お客さんとして来たことがあったのかな
頭に浮かんできたその考えを、"情報収集中にそんな事を考えている場合じゃない"と思い、一旦頭の奥底に沈めた。けれどもこうしてこの部屋にいる杏寿郎さんの姿を目にしたとき、再びその考えが浮かび上がってきてしまった。
「…聞いても…いいですか?」
「構わない。だがなんだ?」
「杏寿郎さんも……こういったお店で…女性を買ったことがあるんですか?」
こんなことを聞いたら嫌われてしまうかな
そう思ったが、どうしても聞かずにはいられなかった。
杏寿郎さんは私のその問いに大きく目を見開いた。けれどもその後すぐ、目をスッと細め
「ひゃっ!」
隣に腰掛ける私を、その腕の力だけで持ち上げ、そのまま杏寿郎さんの正面へと移動させられてしまった。そしてさらに、私の顔にその端正な顔をグッと寄せ
「君には俺が女性を金で買うように見えるのか?」
と、怒りを孕んだ声でそう尋ねられる。