第10章 奏でて、戦いの音を
杏寿郎さんは、私のその"守る"発言によっぽど驚いたのか、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で(いや、フクロウが豆鉄砲と言った方がふさわしい気もする)私を見た後
「…そうか」
と、破顔した。
隊服を杏寿郎さんから受け取り、着替えようと着飾られた服に手をかけ…ようとしたが、目の前から送られてくる視線にはたと気づき手を止める。
「…杏寿郎さん」
「なんだ」
「着替えるので、むこうを向いていてくれませんか?」
「断る!」
いやいや断るじゃないし
「そんな断言されても困ります。着替えにくいし…恥ずかしいんですけど」
「何も恥ずかしがる必要はないだろう。鈴音と俺は恋仲であり、もう君の身体は一度全て「そういう問題じゃありません!」…むぅ」
「むぅ、じゃありません!そんな可愛い顔をしてもダメなものはダメです!ほら!」
杏寿郎さんは不満気な表情を浮かべつつも、私の要求を飲み込んでくれたようでクルリと私に背を向けた。
なんだろう。杏寿郎さんって、任務の時にはあんなにも厳しくて凛々しいのに…それ以外の時は可愛らし過ぎでしょ
私の母性本能は意外な杏寿郎さんの可愛らしさにくすぐられるばかりだ。
念のためにと杏寿郎さんに背を向け着替え始めるも
「…気配と音でわかりますからね」
「わはは!やはり君は鋭いな!」
と、揶揄われているのか誉められているのかよくわからない杏寿郎さんの言葉に、若干の苛立ちを覚えながらも無事に隊服に着替えることが出来たのだった。
「それでは、行ってきます」
半身を窓の外に出し、窓枠に足をかけ、振り返りながらそう言う私を
「決して無理はしないように。何かあれば必ず助けに行く。迷わず俺を呼んでくれ」
杏寿郎さんはじっとその隻眼で見つめてくれる。
怪我以前よりも呼吸は使えないとはいえ、私よりも遥かに杏寿郎さんの方が強い。日輪刀も肌身離さず持っていると言っていた。もちろん頼るつもりは毛頭ないが、何かあっても杏寿郎さんがいてくれると思うととても心強かった。
「そうはならないように十分気をつけます。…でも、いざというときは…お願いしますね。それじゃあ…っ!」
そう言って、脚にグッと力を込め窓から飛び出した。