第10章 奏でて、戦いの音を

「構わない。元よりそのつもりだ」


杏寿郎さんはそう言うと、先程まで杏寿郎さんが座っていたところにあった風呂敷に手を伸ばし


「宇髄より預かってきた」


と言いながらそれを広げ、中から隊服を取り出した。


「…これは私の…どうして杏寿郎さんが天元さんに私の隊服を渡されるんです？」


何となく検討は付いていた。けれども、風呂敷から出てきた隊服を"はいありがとうございます"と素直に受け取るのはなんだか物凄く悔しい気がした。じっと睨むように杏寿郎さんを見るも、全く気にするそぶりはなく、むしろ機嫌良さげに笑っている。


「宇髄には俺がここに来ることが端からわかっていたようだな」

「……なんでしょう。私、天元さんの手のひらで上手いこと転がされている気分です」

「わはは！違うとは言えそうにないな！俺としては、これを渡されなくとも元よりここにこうして来るつもりでいたがな」

「…そうですか」


頭の中に


"頭でも俺様に勝てると思うなよ"


と、天元さんがしたり顔で笑っている姿が浮かんでくる。


「…杏寿郎さんが支払ったここの代金。後で天元さんに請求しましょう」


若干の怒りを抱きながらそう言うも


「そんなことはしない！先程も言ったが、鈴音の言う通り宇髄の手でそう仕向けられた感は否めない。だが俺は確かな意志を持ってここへ来た。鈴音を他の男なんぞに絶対触らせたくないという自分の気持ちに従ったまで！」


杏寿郎さんは相変わらず機嫌良さげに笑っている。


「…そんなんじゃ、悪い人に利用されてしまいますよ？」

「む？俺はそんな風に見えるか？」

「はい。人が良すぎて、心配になります。…でも」


そんなまっすぐな杏寿郎さんを心から好きだと思う。それに


「私が杏寿郎さんを守ります。だからご安心を」


そんなものは私が全て消し去ってみせる


そんな気持ちを胸に抱き、杏寿郎さんの目をじっと見つめた。