第10章 奏でて、戦いの音を
「そうですか」
そんな私を、炭治郎君は切な気な笑みを浮かべながら見ている。きっと、これから、私がどんなことをされるのかをわかっているんだろう。
「…大丈夫。そんな顔しないで」
"大丈夫"
その言葉に嘘はない。炭治郎君が教えてくれたその事実だけで、これから始まる地獄のような時間も耐えられる。確かにそう思えた。
そんな決意を固めたと言うのに。
襖の前まで来て私は気がついた。それは炭治郎君も同じのようで、眉を下げ嬉しそうな顔で私の方を振り返った。
「それじゃあ開けます」
「いったい、いくら使ったんですか?」
襖を開けた先に座っていたのは
「そんな細かいことは覚えていない」
ニッコリと微笑む杏寿郎さんの姿。
炭治郎君と共に部屋に入り、左右を確認してから襖をゆっくりと閉めた。
「煉獄さん!来てくれたんですね!」
「あぁ。それにしても、竈門少年。ずいぶん面白い格好をしているな」
「ふふっ。今は炭子ちゃんって言うんですよ」
「わはは!そうか!炭子か!」
着流しを身にまとった杏寿郎さんが、腕を組みながら胡座をかき、楽しげに笑っている。そんな姿を見ていると
嬉しい
好き
安心する
幸せ
言葉にできない気持ちが、私の胸を温かく包んだ。
「よかったですね!ナオさん」
「…うん」
炭治郎君はまだ女将に仕事を言い付けられているらしく、杏寿郎さんと少し話すと部屋を出て行ってしまった。
部屋に残ったのは、私と杏寿郎さんの2人。
隣に座りたいと思ったが、まがりなりにも今私は任務中だ。その気持ちを抑え、ほんの少し距離を空け杏寿郎さんの正面に座った。
「柱を引退したんですから、あんまり無駄遣いしたらダメじゃないですか」
「何を言っている?これを無駄遣いとは言わない!恋人を守るために必要な出費だ!それに後輩を鍛える費用として、お館様より給金を頂けている。貯金もまだ把握しきれない程ある!問題はない!」
そう当然のように言ってのける杏寿郎さに、私の口角は自然と上がってしまう。