第10章 奏でて、戦いの音を
女将さんはそういうと
「炭子!鈴音をお客さんの所に案内しな」
いつの間にか後ろにいた炭治郎君…もとい、炭子ちゃんを呼び
「…はい。女将さん」
私を座敷へと連れて行くように言った。目に映った炭治郎君の顔は、見るからに私を心配するそれで、私は炭治郎君が安心するように
「案内、お願いね」
笑みを浮かべながら言った。炭治郎君は何も言葉にはしなかったものの、ただ大きく一度頷いた。
座敷までの道のりは当然の如く足取りが重くなり
「…はぁ…」
炭治郎君を心配させてしまうからよくないと思いながらも、口から溜息が漏れ出てしまう。
「…大丈夫ですか?」
前を歩いていた炭治郎君が立ち止まり、心配そうな表情を浮かべながら私の方を振り返る。
「うん。…心配しないで。心の準備はきちんとして来たから」
それに倣い私も立ち止まり、作り笑いを浮かべそう答えるも、炭治郎君の顔はパッとしない。そして、何かを思案するように左右に目を揺らした後
「答えたくなければそう言ってください。…鈴音さんと煉獄さんは、恋人同士なんですか?」
と、遠慮がちに尋ねられた。
「…え!?」
思わぬ炭治郎君からの質問に、大袈裟に反応してしまう。
「最近俺、煉獄さんに稽古をつけてもらってるんです」
「…そうなんだ」
確かに真っ直ぐな杏寿郎さんと、それに負けず劣らず真っ直ぐな炭治郎君は良い師弟関係になりそうだと容易に想像がつく。
「ここに行くからしばらく稽古には来れないと報告をした時、"鈴音をよろしく頼む"って…そう言われたんです。その時煉獄さんから香ってきたのは、俺の両親からも香って来たことのある、たくさんの愛情を感じるそれでした」
「…っ!」
どうしよう…すごく…嬉しい
「…教えてくれて、ありがとう。まだ恋仲になったばっかりなんだけど…ね」
杏寿郎さんと自分の関係を、天元さん以外に話すのは初めてのことで、なんだか擽ったい気持ちになってしまった。