第10章 奏でて、戦いの音を
「俺も、匂いでなにか掴めれば良かったんですけど…店の中は色々な匂いがしてとても探りにくいんです」
「香やら食べ物やら色々匂いがするもんね。私がもっと動ければよかったんだけど…思った以上に拘束される時間が長くて…」
初日に聴いてもらった私のお箏を女将が大層気に入ってしまったようで、他の子にも教えてあげて欲しいと頼まれてしまったのだ。
もちろん、"忙しいので無理です"なんて言えるはずもなく、昼の空いている時間に調査を進めるはずが、箏の指導に時間を取られ、ほとんど動けていないのが現状だ。
「これじゃあ何のために潜入しているのかわからないよ…」
些細なことでもいい。
雛鶴さんまきをさん須磨さんの情報が欲しい。
「…鈴音さん…そんなに強く唇を噛むと、出血してしまいます」
無意識のうちに唇を強く噛んできたようで、炭治郎君が身を屈め、心配気に私の顔を覗き込んでいた。
「…気を遣わせてごめんね。全然…思った通りに動けなくて…少し焦ってるの」
こんなことをしている間に、3人に何かあったら…
そんなことは想像もしたくなかった。
歩きながら話していたはずが、いつの間にか私の脚はすっかりと止まっており、自分のつま先をじっと見つめながら通路の真ん中で立ち止まっていた。
「大丈夫です」
力強くそう言った炭治郎君の言葉に釣られゆっくりと顔を上げると、ひたすら真っ直ぐな視線が私へと向けられていた。
「鈴音さんが動けない分も俺が頑張ります。それに、他の店にはそれぞれ善逸と伊之助がいます。俺たちを信じて下さい」
「善逸に…伊之助君も…?」
「はい!鈴音さんも知っての通り、善逸は耳が凄くいいし、伊之助は野生動物みたいに感覚が鋭い!だからきっと、あの2人も何か掴んでくれるはずです!」
その言葉は、心からそう思っていることがよく伝わり、私に平常心を取り戻させるのには十分だった。
「…そうだね…ありがとう」
「はい!」