第10章 奏でて、戦いの音を
「たん…っ」
名前を呼んでいる途中でふと気がついた。
炭治郎君て呼んだら…不味いよね?若い衆…って感じの見た目じゃないもん
そう思いいたり、言葉の途中で口をつぐんだ。けれども、私の声は炭治郎君の耳にはしっかり届いていたようで
「…鈴音さん!会えてよかった!」
両手に持った大量の荷物を、絶妙なバランスを保った状態で私の方へと振り返った。私は炭治郎君に走り寄ると、そのままその耳に口を寄せ
「なんて呼んだら良いの?」
とこっそり尋ねた。すると
「炭子です!」
屈託のない笑顔でそう教えてくれ、私はなんとも言えない気持ちになった。
…年頃の男の子にこんな珍妙な格好をさせるなんて…天元さんはどういうつもりなのよ…
「…うちの師範がごめんね」
思わず謝ってしまう私に
「…?どうして鈴音さんが謝るんですか?」
炭治郎君は首を傾げそう問うてきた。一切の曇りも感じないその瞳が、いかに炭治郎君が純真で、真っ直ぐな性格をしているかを示しているようだった。
「…なんでも…かな。…っところで!たん…炭子ちゃんはいつからここにきてたの?何か掴めたことはある?」
気が急いているせいか、早口で捲し立てるように質問をしてしまい、内心しまったと焦った。けれども炭治郎君はそんなことはちっとも気にしていないようで
「昨晩からです!だからまだほとんど何も掴めてなくて…。鈴音さんの方はどうですか?」
「私も同じ。須磨さんが足抜けしたって事以外は何も掴めなかったの」
「足抜け…鯉夏さんの所にいる女の子たちも同じことを言っていました」
「…そうだよね。でも…何も掴めないってことは、この店に鬼は潜んでいないと思うんだよね」
今まで探ってきた中で、ときと屋内に鬼の気配を感じることも、違和感のある音を拾えることもなかった。強いておかしいところをあげるとすれば、誰が使うのかわからないような細い抜け道のようなものがある事くらいだ。