第10章 奏でて、戦いの音を
一刻も早く部屋に戻り情報収集に出たい私は
"へぇ…そうなんだ"
と、適当な返事をし、もっと話したそうにしていたその子に"ごめんね!この後予定があるの"と謝りさっさと会話を切り上げてしまった。
遊郭に太鼓女郎として潜入したものの、"須磨花魁は足抜けした"という情報以外大した情報が集められておらず、空いた時間はとにかく情報収集に費やしたかった。
三味線や箏の音、それからたくさんの人がいるため、私の耳ではときと屋全体の音を聴いて探ることは出来ない。これだけいろんな音や人が入り混じっていると、響の呼吸の型で気配を探るにしろ範囲はかなり狭くなる。
だから自分の足でときと屋内を歩き回り、順番におかしなところがないか探って行くしかなかった。
…本当…耳にしろ気配にしろ…場所によっては全然役に立たないんだもん。中途半端ったらありゃしない。…それにしても"変な子"なんて噂されるような子を買うなんて…女将さん、女将なのに見る目がないのかな?
そんな失礼なことを考えながら長い廊下を歩き、聞き取れる範囲の音を拾っていると
"炭子ちゃん。これも運んでおいてくれる?"
'"はい!わかりました!"
「……は?」
ここにいるはずのない人物の声が聴こえ、思わず足を止めた。
…え?…今のは…聞き間違い…?いやでも…全部の音を拾えないことはあっても、拾った音を聴き間違えるはずがない…
止まっていた足を動かし、声のした方へと急ぎ向かう。
廊下の突き当たりまで辿り着き、そこを右に曲がると、頭のてっぺんに赤いリボンをつけ、いつも身に纏っている羽織と同じ柄の着物を着た知り合いらしき人物の背中が目に入った。
…まぼろし…じゃない…気配が…ちゃんとするもん。…あれは間違いなく炭治郎君だ…え?…天元さん…炭治郎君をこの店に…売ったの?…え?売れたの?…いやいや炭治郎君男の子だし、あれをどうして買うの?え?化粧映えする顔なの?…女将さん…やっぱり見る目がないの…?
そんな失礼とも思われる事を考えながら、私は炭治郎君に追いつこうと歩みを早める。