第10章 奏でて、戦いの音を
「肩に傷ねぇ…いい見た目してるのに…もったいないねぇ」
遊郭、ときと屋を取り仕切る女将が、言葉の通り残念そうな目線を私へと向けている。
「ひどい傷ではあるが、こいつの箏の腕は良い。舞の才もある。太鼓女郎としては一級品だ。高く買ってくれとは言わねぇ。なんとか女将さんのところで面倒見てくれねぇか?」
そう言って天元さんは、私の肩を掴み、ズイッと女将さんの方に強い力で押した。
…ひどい傷だって自分でもわかってるけど…そう何度も言われるとちょっと傷つくかも…
ひどい傷であることは事実だ。見た目がよろしくないことも自覚している。けれども、いくら相手が天元さんとは言え、何度も何度も"ひどい傷"と言われるのは流石にこたえるものがあった。
"美しい"
誰が観ても醜いと言える傷跡に、暖かい視線を向け、優しく撫でてくれた杏寿郎さんの手の感触が恋しい。
そんなことを考えたいる間に
「よし!買おうじゃないか!代金はこれでどうだい?」
無事、天元さんと女将の商談は成立したらしい。
女将さんが差し出したお金を、天元さんはほとんど確認することもなく受け取り
「ありがとうな」
そう言いながら満面の笑みを浮かべ懐にしまった。
「それじゃあ、鈴音、達者で暮らせよ」
天元さんは私の肩にその手をポンと乗せ
「頼んだぞ」
私の耳元で、私にだけ聞こえる声量でそう言い、さっさと店を出て行ってしまった。
任せてください
心の中でそう呟き
「さ、じゃあこっちに来な。えっと…」
「鈴音です」
「そうだったね。それじゃあ鈴音、まずはあんたの箏の腕を確認させてもらおうかい。こっちに来な」
「…はい。よろしくお願いします」
私は
"鬼殺隊士荒山鈴音"
から
"太鼓女郎荒山鈴音"
へと姿を変えた。
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太鼓女郎としてお勤めを始めて3日。
みんなで同時に行う稽古を終え、足早に部屋に戻ろうとする私に
"ねぇ知ってる?他の子から聞いたんだけど、変な女の子が売られてきたらしいよぉ"
と、同じく太鼓女郎を務める子がそれはもう楽しげな顔をしながら教えてくれた。