第9章 燃やして欲しい、私の全て※
「炎柱様!」
私の姿を確認した炎柱様の隻眼が一瞬見開かれた。けれどもその後、優しげに細められ
「杏寿郎だ」
と、目線と同じく優しげな声色でそう言った。
「…杏寿郎さん…ごめんなさい。まだ呼び慣れなくて」
杏寿郎さんの前にたどり着いた私は、普段よりも少ない身長差に新鮮な気持ちを抱きながら杏寿郎さんの事を見上げた。
「昨日ぶりだな!…身体は大丈夫か?」
その問いに杏寿郎さんとの昨日の情事が思い出され、急激に頬に熱が集まる。
「…大丈夫…です」
「それは良かった。それにしても…昨日とはまた感じが違い素敵だ!その姿で売られて行くと思うと複雑な気持ちになるがな!」
そう言って杏寿郎さんは"わはは!"と笑った。
「…杏寿郎さんは、やっぱり器が広いですね」
私だったら、恋仲になったばかりの相手が、任務のためとは言えそういった場所に行くと聞いたらそんな風に笑ってはいられない。
「む?そうでもない」
そう言いながら杏寿郎さんは私の腕を掴み
「…ひゃっ!」
グッと引き寄せられ
ちぅ
私の唇に、昨日とは違うカサついたそれを寄せてきた。
…柔らかくて…温かくて…気持ちいい
そんなことを思っている間に、名残惜しくも杏寿郎さんの唇が離れて行く。杏寿郎さんはそのまま至近距離を保ちながら
「絶対に、無理はしないように」
私の右耳に唇を寄せそう囁いた。その声はやはり私の胸を酷く安心させ、それと相反するように甘くときめかせる。
「…はい。帰ってきたら…会いに行っても良いですか?」
私がそう問うと、杏寿郎さんは少し考える素振りを見せた後
「もちろん!待っている!」
先程よりも、若干大きな声でそう応えた。その様子は明らかに怪しさを含んでいる。
「…何か…隠していますね?」
じっと目を細め杏寿郎さんを見ながらそう尋ねるも
「知らん!」
杏寿郎さんは目を明後日の方に逸らしながらそう断言した。
「ふふ…っ下手な嘘」
そのあまりにもあからさまな様子に堪えきれず、手で口を覆い隠しながら笑ってしまった。