第9章 燃やして欲しい、私の全て※
…前に話を聞いた時は、先代炎柱様とあんまり関係がよくないみたいだったけど…もしかして、今は違うのかな?
そんな疑問が表情に出てしまっていたようで
「怪我の後遺症で以前ほど呼吸が使えなくなり前線を退く事にしたと父上に報告した際、"情けない"と、いつものように言われることを覚悟していた。だが蓋を開けてみれば、情けないと言われるどころか、生きて帰ってきたことを感謝され、これまでのことを謝られた。とても拍子抜けした!」
炎柱様は右目をわずかに細め、穏やかな表情をしながらそう教えてくれた。
「…それは…よかったですね」
何でもないことのように先代炎柱様、つまりはお父様との不仲を教えてくれた杏寿郎さんの姿を思い出すと、今目の前で穏やかな表情を浮かべる杏寿郎さんの姿に安心感を覚えた。
「もちろん今でも前線で皆と戦うことができたらと思わないわけではない。少しでも戦えるようにと父上と共に稽古もしている。…だが時間ができては稽古をつけて欲しいと俺のところに来てくれる隊士達や、前線を退いた俺はもう炎柱じゃないと言っているのにも関わらず、当たり前のように炎柱と呼んでくれる隊士達の姿を見ると…今の自分もそう悪くないと思える」
「……そうですか」
「うむ!」
嬉しそうに微笑む杏寿郎さんの顔を見ていると、自然と私も笑顔になれた。
結局、なかなか帰ろうとしない杏寿郎さんに"弟さんと約束があるのだから早く帰ってください"と説得し、杏寿郎さんはようやく帰路へとついた。
呆れてしまうほど何度も振り返る杏寿郎さんの行動が何とも可愛らしく、自分が長屋に入ればすぐにこのやり取りも終わると分かっていながらもそうできなかった私は、もう杏寿郎さんへの気持ちを隠せなくなってしまったことを自覚せずにいられなかった。
姿が見えなくなり、ようやく長屋に入った私はすぐさま天元さんに
"条件を達成したので私も連れていってください"
と、文をしたため和に持って行ってもらった(杏寿郎さんと私のやり取りをどこかで見ていたようで、なんだか物凄く温かな目で見られていた気もしたが恥ずかしいのでそこには触れなかった)。