第9章 燃やして欲しい、私の全て※
鬼殺隊に隊士として所属している以上、普通の恋仲同士のように過ごすことが出来ないことは重々承知している。
とはいえ、恋仲になった相手が、ましてやようやく思いの届いた相手(自分で言ってしまうのは大変恥ずかしくはあるが概ね事実のはず)が、想いが通じ合ってすぐに遊郭に行ってしまうことなどそうないだろう。
…私が逆の立場だったら…絶対に嫌だもん
杏寿郎さんの目を見れず、視線を下げてしまっていると
「わかっている。君の邪魔をするつもりはない」
杏寿郎さんは落ち着いた声色でそう言った。けれどもその後
「だがその代わり、俺も、俺の大切な君を守るため、好きなようにさせてもらう!」
自信あり気に述べられたその言葉に、視線を上げ、杏寿郎さんの顔を見た。
「好きなようにとは…いったい?」
そう尋ねるも
「それは秘密だ!」
満面の笑みでそう言われてしまい
「…秘密…ですか」
「うむ!」
それ以上聞くことは出来なかった。
…まさか…遊郭まで来たり…しないよね?いやいやないない。杏寿郎さん、遊郭とか苦手そうだし、隊士に稽古つけるのに忙しくってそんな暇ないでしょう。それに私、太鼓女郎として行くって言ったから来たってしょうがないって分かってるだろうし…いやでも…
そんなことを考えながら杏寿郎さんの顔をじっと見ていると
「どうかしたか?」
と、逆に質問をされてしまう。
「…なんでも…ありません」
「そうか。…名残惜しくはあるが、俺はそろそろ帰るとしよう」
杏寿郎さんはそう言いながらチラリと空を見上げ、お日様の高さを確認しているようだった。
「…っ…そうですよね。長々と…引き止めてしまってすみませんでした」
「俺が好きでここにいるんだ。謝る必要はない。実のところ、まだ離れ難いのだが、弟と会う約束をしていてな。これから生家に行くんだ」
「…弟さんに会いに…生家に?」
「あぁ!」
思い出されるのは、偶然町で会った杏寿郎さんと瓜二つの弟さんのこと。そして、杏寿郎さんのお父様である、先代炎柱のこと。