第9章 燃やして欲しい、私の全て※
それにしても身体が重い…特に下半身…
ごそごそと下半身を拭くと、破瓜の証拠である私の血液、それから杏寿郎さんのソレから放たれた子種が付着していた。
”娶ると決めている”
杏寿郎さんは、確かにそう言っていた。けれども正直に言って、先ほどようやく自分の気持ちを伝えることができ、恋仲になる決心がついたばかりだというのに、その先のことなんてまだ考えられるはずもなかった。
…判断が…早すぎるよ…
嬉しくないわけじゃない。初めてをもらってほしい、これからもずっとそばにいたいと思い慕う相手が自分のことを娶ると言ってくれている。こんな自分をそこまで思ってもらえることに、幼いころから空きっぱなしになっていた私の心の隙間が埋まっていくような気さえした。
そんなことをグダグダ考えていると、ふっと背中に温かな温もりを感じた。
「背中は俺が拭こう」
一瞬断ろうかとも思ったが
「…っ…ありがとう…ございます」
身体もまだ痛く、腕を伸ばすのも億劫だったのでその申し出に甘えることにした。
「俺のに比べると、随分小さく柔らかな背中だな」
「…炎柱様の「杏寿郎だ」…杏寿郎さんの大きな背中に比べれば、大抵の背中は小さく見えます」
杏寿郎さんの背中は、大けがを負い、長期療養をしていたとは思えないほどに大きくがっしりとしている。誰が見てもそう見えるのは、杏寿郎さんの責任感の強さ、面倒見のよさ、人を惹きつける素敵な心、それらの全部がその背中から透けて見えるからに違いない。
そんな誰もが惹きつけられる人に思いを寄せられ、共に時間を過ごせる。どうしようもなく幸せだ。けれども幸せだと思うと同時に、その幸せを失う時のことを考えると、どうしようもなく怖くなった。
「考えても仕方のないことは考えるな」
「…っ…」
唐突に発せられた杏寿郎さん言葉に首だけ振り返る。すると、私の背中を愛おし気に見つめる杏寿郎さんの隻眼が見え、胸がトクリと音を立てた。