第9章 燃やして欲しい、私の全て※
身体を横たえ私を見る炎柱様は、先程までの野生的な目力が嘘のように、優しく、穏やかな目をしていた。
…薬の効果が…なくなったのかな
そんなことを考えながらフッと視線を下ろすと、炎柱様の身体に刻まれたたくさんの傷跡に改めて気付かされる。私の身体にも、多少なりとも傷跡はある。隊士として戦っている以上、決して避けては通れない道だ。
それでも、あれだけの強さをもつ炎柱様の身体に刻まれた傷の数々が、炎柱様がいかにたくさんの鬼と戦い、たくさんの人を救ってきたかを示しているような気がした。
その中の1番大きな傷跡に手を伸ばし、スッと優しく撫でるように触れた。すると炎柱様も
「君の身体も…傷だらけだな。だか、美しい」
そう言いながら、私の肩にある大きな傷跡に視線を向け、指先でそっと撫でた。
その指がまるで
この傷すらも愛おしい
と、言っている気がして、私の胸はギューっと甘く締め付けられる。
「さて。はっきりさせておく必要がある。君は俺を受け入れた。今日から君と俺は恋仲になった。それで間違いはないな?」
炎柱様は私の傷を撫でるのをやめ、私の頬にそっと手を添えながらそう問うてきた。
その言い方は、疑問形式ではあるものの、有無を言わせない威圧感を含んでいるように感じられる。
「…確かに私は、炎柱様の事が…好きです。それは認めます。…でも恋仲になるとは……言っていません」
「やはりな!そうくると思った!だがその主張は受け入れかねる!何故君はそんなにも片意地を張る?俺が相手ではそんなに不満か?それに何度も言うが俺は炎柱様じゃない!杏寿郎だ!」
炎柱様はその言葉と共に、グッと私の顔にその端正な顔を近づけてきた。
「…不満とか…そんなんじゃありません!私は…っ…私じゃ…炎柱様に…相応しくないんですっ!」
叫ぶように吐いたその言葉は、果たして炎柱様に向けたものか。溢れ出てしまった気持ちを抑えきれない自分に向けたものなのか。
…もう…わからないよ…
離してもらえないならと、せめてもの抵抗で自分の顔を掌で覆い隠した。