第2章 脱兎の如く
そんなことを考えているとグリンっとその顔が再びこちらに向き直り、
今度は何!?
私は思わず一歩後ずさる。
やだやだ近づいてくるんだけど!
ずんずんと大きな歩幅でこちらに迫ってくる様子に、私は混乱してしまいそうになる頭を保とうと必死だった。ぴたりと、先ほどよりもさらに近い距離で止まり
だから近すぎるんだって…っ!
私がそんなことを思っているとはつゆ知らず、
「安心するといい!俺が君のことを鍛えてあげよう!」
私の両肩に手を置き、先程の話の続きのつもりなのだろうか、私の苦手とする大声でそう言った。そのものすごい勢いに、呆気に取られていると
「変わった模様をしているようだが、君は雷の呼吸の使い手だろう?俺は炎の呼吸の使い手だが、基本はみな同じはず。何も心配はいらない!」
何を勘違いしているのか、私にそう明るく微笑みかけてくる。
あ、だめだ。ちゃんと言わないと、この人絶対に自己完結して、私が承諾したと思われちゃう。
そのことにようやく気が付いた私は、やんわりと、決して失礼のないようにやんわりと肩に置かれていた手を引きはがす。
「大変ありがたいお誘いではあるのですが、私の為に炎柱様の貴重なお時間を割いていただくわけには行きません。自分なりに筋力が付くいい方法がないか模索してみますので、どうぞ私のことなど気にせず御身体を休める時間にお当てください」
渾身の作り笑いを浮かべ、私は炎柱様からのお誘いを丁重にお断りした。そう丁寧に、とても丁寧にお断りした…はずなのに。
「遠慮することはない!後輩を育て強くするのも柱としてのれっきとした勤め!俺のことなど気にせず、いくらでも俺のところに来て鍛錬を積めばいい!君はもっと強くなれる!俺が責任を持って鍛えてあげよう!」
「………」
私は貼り付けた笑顔をそのままに、心の中で
嫌なんです。あなたのことが苦手なんです。察してよ。
心の中で盛大に文句を垂れていた。
だめだ。この人…言葉を言葉の通りにしか受け取ってくれない。失礼覚悟ではっきりと言うしかないのかな。でもこの人は上官だし、失礼な態度は取りたくない。