第2章 脱兎の如く
いつの間にそこに⁉というか髪の色派手だし(まぁ善逸もそうだけどあれは不可抗力だし)、声でかすぎるし、眼力ありすぎるし、何よりも近すぎでしょ。”対人距離”って言葉知らないわけ?こんなの顔も名前も知らない初対面の男女の距離じゃないでしょ。
心の中はこんなにも雄弁にものを語っているのに、実際には驚き固まる私の口からはなんの言葉も出てきてはくれない。
そんな私の様子に全く気付く気配のないこの派手な髪色の、大きな男性は
「だが見たところ、君は随分と小柄だ。それに足腰のバネは良いようだが筋力が少ないように見える」
そう言うと徐に両手を私の二の腕へと伸ばし、むにゅむにゅとその感触を確かめるように触った。
そのあまりにも予想外の行動に私は全くもって対応ができず、ただされるがままに”むぅ”だとか”成る程”と言いながら好き勝手にむにゅむにゅされ続けることしか出来なかった。
けれども
「「煉獄様!」「「炎柱様!」」
村田さんや、この隊の隊長、そして他の隊員達に呼ばれそちらに視線をやった”煉獄様”とやらは
「怪我をしているのか?見せてみろ」
と言いながらようやく私の二の腕からその手を離し、そちらへと向かって行く。私は思わず、その解放された二の腕を掌でササッ、ササッと順番にはらい
何なのよ…この失礼極まりないデカくてうるさい男は!
そう思いながら、先ほどまでの鬼との戦闘の報告をしているであろう6人を遠くから眺めていた。
そういえばさっき…あの失礼な男、炎柱様って呼ばれてた気がする。
確かにいつかの合同任務の際、”炎柱様の特徴的な髪の毛って素敵よね!””そうそう!美丈夫な上、私たちとも気さくに話してくれるし!あの目力も、心の中まで見透かされちゃいそうで…目が合うだけでドキドキしちゃう!”
なんて自分と同年代の女性隊士が話していた気がする。そういった話題に全く興味が持てない私は、”ふーん”なんて聞き流していたが、まさかあの人がその炎柱様とやらだとは。
ただの"対人距離"っていう言葉を知らない失礼な人じゃない。