第9章 燃やして欲しい、私の全て※
ここで炎柱様が去ってしまえば、私は他の誰かと情を交わさない限り、天元さんに置いて行かれてしまう。
…そんなのだめ…
そうなるとやはり、炎柱様に今この場で、私の初めてもらってもらうしかない。
遊郭に行くと決意したあの時、雛鶴さんまきをさん須磨さんを助けに行けるのであれば、自分の"初めて"がどうなろうと構わないと思っていたはず。
けれども今は
初めての相手は炎柱様がいい
炎柱様じゃないと嫌
そう思ってしまっていた。
我ながら、なんて意思が弱くて勝手な人間なんだろうと呆れてしまう。そんな甘い考えで、もし遊郭で客を取れと言われるようなことがあった時、対処できるのかと心配になる。それでも、どうしても
初めてを捧げるのは炎柱様がいい
と、思わずにはいられなかった。
離れていく炎柱様の腕をパシリと掴み
「…お願いです…他の人じゃ…ダメなんです…!初めての相手は…炎柱様がいいんです…っ」
去って行こうとする背中に向け、必死で"抱いて欲しい"と頼む私は、端から見れば恥ずかしい女に違いない。
そんな私の方に、炎柱様はゆっくりと振り返り
「…っ…何故…俺が…いいと…?」
息荒く、顔を紅潮させながらそう尋ねて来た。
「…っ言わないと…わかりませんか…?」
ここまで言って、ここまでして、炎柱様が私の言わんとしていることに気づいていないはずがないのに
「…あぁ…わからない…」
必要以上になんでも正直に喋るその口を、今日に限って割ってくれない。思わず縋るような気持ちで見た炎柱様の目は
言って欲しい
と、私に訴えかけているように見えた。
…あぁ…もうダメ…
「…っ…好き…なんです…炎柱様の…ことが…っ…」
絶対に、何があっても言わないつもりでいた私の気持ちは
「だから…私の初めては……炎柱様に…もらって欲しい…っ…」
コップから溢れ出した水のように、心の奥底に留めておくことなど出来なくなってしまった。