第2章 脱兎の如く
「村田さんから見て10時と4時の方向!鎌状に腕を変形させて足首をまっすぐ狙ってくるはずです!避けてそのまま攻撃を!すぐ来ます!」
「わかった!」
村田さんはそう返事をすると、すぐに肺に空気を取り込む。私も9時と4時から感じる鬼の音と気配に向け呼吸を瞬時に整える。
雷の呼吸 肆ノ型
2体の鬼が飛び出してくるのに合わせ
「ぎぃぃぃぃ!」
うるさっ。なんて耳障りな鳴き声
そう心の中でごちりながら
遠雷ッッ!!
技を放ち2体同時にその頸を跳ねた。
「っしまった!一匹逃がした!」
村田さんのその声に、私はフッと鬼が逃げて行った方角に向きを変え、ぐっと右足のつま先まで神経を研ぎ澄まし、一気にそちらへと跳躍する。
鬼の頭上を通り過ぎ、くるりと体を回転させ逃げ道を塞ぐと
「ぎぃぃぃぃい!!!」
再び発せられる耳障りな鳴き声に顔をしかめながら
「残念でした!善逸の方が…あんたよりずっと…速いからっ!!!」
雷の呼吸 霹靂一閃
鬼の頸を跳ね上げた。
鳴き声といい、この肉と骨の切れる音といい…本当耳障りで嫌。
それを浄化するかのように、私は頭の中で女将さんが私のために弾いてくれた箏の音を思い出だす。そうすると、先程までの胸のざわつきが嘘のそうに、スゥーっと着きを取り戻していく。
その後、鬼の身体が完全に消え去るのを確認し、村田さんと負傷している隊士がいる場所へと急ぎ戻った。
先ほどまで村田さんと背中を合わせていた場所に戻ると、足を引きずって歩く今回の合同任務の隊長の姿、そして他の隊員の姿も見え、怪我を負いはしたものの、無事鬼を殲滅出来たことにほっと肩を撫でおろした。
だから私は、すっかり気を抜いてしまっていた。
ブワッ
背後に熱い風を感じ
え?何?
と思いながら振り返ると、
「先ほどの君の体捌きはとても素晴らしかった!一瞬で鬼の逃げる速度を超えるその素早さ!正確に頸を跳ねるその技術!目を見張るものがある!」
「…っ⁉⁉」
私から20センチほどしか離れていない近距離に、体格のいい、頭に響くような大声で喋る男性が、腕を組み立っていた。