第9章 燃やして欲しい、私の全て※
炎柱様は、胡座をかき、腕を組みながら
じーっ
と私を見ている。そんな様子に
「…っ食べにくいんですけど」
私がそう言うも
「そうか。それはすまない」
炎柱様は誰が聞いてもすまないと思っていなさそうな、抑揚のない声で謝罪を述べる。その様子が、炎柱様が怒っているということをはっきりと示していた。
…当たり前か
今まで散々自分が示した好意を無碍にし、受け入れるのを拒んでいた人間が、突然蕎麦屋の二階に誘って来たら誰だって困惑するに決まっている。
「ご馳走様でした」
なんとか蕎麦を食べ終え、箸を置き、私は炎柱様の方に身体を向き直る。
「…お腹は…満たされましたか?」
「あぁ。空腹は満たされた。だが俺は未だ、なぜ自分がこの場に君と2人でいるのかを理解出来ていない」
炎柱様はそう言って、私を射抜くような鋭い視線を向けてくる。そんな様子に、申し訳ないやら情けないやら、そんな感情がごちゃごちゃに混ざり合い、何か言わなければと思いながらも、上手く言葉にする事が出来なかった。
「…少し、待っていてください」
炎柱様の返事を聞く前にさっと立ち上がり、急ぎ厠へと向かった。
廊下を進み、厠につくと、巾着から小瓶を取り出す。小瓶の中には小さな丸薬が入っており、私はそのうちのひとつを自らの口入れ、その後事前に準備しておいた少量の水も一緒に口に含んだ。
これでもう、後には引けない
大丈夫、私はやれる
私の心臓は、不安と緊張で忙しなく大きな音を立てていた。
厠から部屋へと戻りながら、炎柱様が帰ってしまっていたらどうしようと不安になりはしたものの、襖を開いた先で、炎柱は先程と同じ姿勢で胡座をかいていた。その視線は、畳に向いており、私の方を向いてはくれない。
それがなんだかとても少し悲しかった。