第9章 燃やして欲しい、私の全て※
その声は、先程までの楽し気な様子とは一変し、怒っているのがはっきりとわかるそれだった。
けれども、引き下がることはできない。
「……わからない程、子どもではありません」
振り返り、炎柱様の目をジッと見据えそう言った私に
「…そうか」
炎柱様は微かに眉間に皺を寄せながらそう言った。
そして
「俺が先に行こう」
そう言ってスッと私と蕎麦屋の扉の間に滑り込み、私が開けようとしていたそれをその手で開いた。
「……いらっしゃい!」
店に入ると、私と炎柱様のただならぬ様子を感じ取ったのか、店員さんの方から
「2階の1番奥の部屋が空いとりますが…使いますかい?」
と、私と炎柱様の元へと近づき、声を顰めつつそう尋ねて来る。炎柱様は私が返事をするよりも早く
「そうさせてもらおう」
そう答え、さっさと階段を登って行ってしまう。私はその背中を追う前に、店員さんへと近づき、事前に準備しておいた、相場の値段の3倍の金額をこっそりと手渡した。
「…蕎麦は先に持って来てください。その後は…どうか私達が店をを出るまで放っておいていただけませんか?」
恥ずかしさで目を合わせられないまま店員さんにそうお願いすると
「…承知しやした」
そう言って、私の差し出したお金をサッと懐へと収めた。
「注文が決まったら伝えに来ます。それじゃあ…お願いします」
「へい」
店員さんとの会話を終えた私は、そそくさと店内にいる人の目を避けるようにしながら二階へと消えて行った炎柱様の後を追った。
「ごゆっくりどうぞ」
わかってはいたものの、蕎麦を持って来た時の店主の含みのある言い方が物凄く心地悪く、この場所が"そういうこと"を目的で使われていることをどうしても意識せざるを得なかった。
注文した山菜蕎麦をチビチビと食べる私の横で、炎柱様は大盛りの蕎麦と天麩羅を無言で食べていた。
…味…全然しない
チラリと部屋の中央を盗み見ると、これみよがしにひと組の布団が敷いてある。それが余計に私を緊張させた。
そんな食の進まない私の一方で、炎柱様は既に蕎麦も天ぷらも食べ終わってしまったようで、微かな音を立て、その手に持たれていた器がちゃぶ台へと置かれた。