第9章 燃やして欲しい、私の全て※
小間物屋を覗き、甘味を食べ、炎柱様と街を並んで歩いていると、時間は驚くほどに早く進んで行った。危ないからと炎柱様の左側をしきりに歩こうとする私に
"左側に立たれてしまうと荒山の可愛らしい姿がよく見えない!"
と、声高らかに言われてしまい、恥ずかしさを堪えながら右側を歩かせてもらうことにした。
それからしばらく時間が経った頃
ぐぅぅぅう
隣を歩く炎柱様のお腹が、大きな音を立て空腹を訴え始めた。その音を聴いた私が隣を歩く炎柱様の顔を見上げると
「少し前に甘味を食べたのだがな!こんなにも大きな腹の音を聞かれてしまうとは恥ずかしい!」
わはははは!
と、ちっとも恥ずかしくなさそうな様子でそう言った。
私はこの言葉をずっと待っていた。
「…っ今日は、私の行きたいお店に行く約束ですが…いいんですよね?」
恥ずかしさで震えそうになる声を抑えそう尋ねると
「うむ!構わない!して、どこへ行きたいんだ?」
炎柱様は、いつもの表情を浮かべながらそう尋ねて来た。
「…こっちです」
「む?そっちか!荒山の事だ、またいい音とやらがする場所なのだろうか?楽しみだ!」
「…っ…着いて来て下さい」
腕を組み、黙って私に着いて来てくれる炎柱様は、まさか私が"蕎麦屋の二階"に連れ込もうとしているとは夢にも思っていないだろう。
しばらく歩き
「…ここです」
たどり着いた店が何屋なのか気がついた炎柱様は
「……」
その店の二階を、じっと睨むように見ながら黙り込んだ。
そんな炎柱様の姿に
恥ずかしい
逃げたい
怖い
そんな気持ちで胸が大きく騒ついた。それらの気持ちを心の奥底にグッと沈め
「…っ行きましょう」
店の扉に手をかけようと腕を伸ばす。その手を
パシリ
「荒山。君は意味をわかってやっているのか?」
炎柱様が痛いと感じるほどの力で掴んだ。