第9章 燃やして欲しい、私の全て※
「それにしても、今日はいつにも増して愛らしい」
炎柱様はそう言って、私のことを頭のてっぺんから爪先までゆっくりと眺めるように視線を下げていく。その視線を、"嫌だ"と感じない私は、やはりどうしようもなく炎柱様の事を好きになってしまっているのに違いない。
炎柱様は再び私と目線を合わせると
「俺と会うため、その様な装いをしてくれたのか?」
普段のそれよりも、口角を高く上げながらそう問いかけて来た。
"そんなことはありません"
いつもの私なら、間違いなくそう答えていた。けれども、今日は違う。
「…はい。今日は…炎柱様と…きちんとデート…したかったんです」
今日の最終的な目的は、天元さんに課せられた条件達成する事。つまり"炎柱様と情を交わす"ことである。けれども、こうしてめかし込んできたのは、決してそのためだけではなかった。
ただ純粋に、普段と違う、着飾った自分で炎柱様の隣を歩きたかった。
「…っ…です…」
自分で言っておいて、急に酷く恥ずかしくなってしまい、頬に急激に熱が集まってくるのを感じた。
…やだ…顔…絶対に赤くなってる…
けれども、こんなことで恥ずかしがっている場合じゃない。私はこれから、それ以上のことをしようとしているのだから。
恐る恐る晒していた視線を炎柱様の顔へと戻すと、炎柱様は目を見開き驚いた表情で私のことをじーっと私を見ていた。隻眼にも関わらず、その視線はとても力強いもので、緋色の右目に吸い込まれてしまいそうな、そんな感覚に陥る。
「……なんでしょう?」
あまりの熱い視線に居心地が悪く、もじもじと自分の手を弄りながらそう尋ねると
「…荒山がいつもと違い素直故驚いている。天邪鬼な君も可愛らしいが…素直な君は一層可愛らしい」
炎柱様は眉の端を下げ、愛おしいものを見るようなそんな優しい目で私を見つめそう言った。
「…っ…そんなこと…ありません」
恥ずかしさで声を振るわせながらそう答えた私は、もはや自分の気持ちを隠すことなど全く出来ていなかった。