第9章 燃やして欲しい、私の全て※
身支度を終え、鏡に映る自分の姿を見ると、鬼殺隊士"荒山鈴音"の顔ではなく、恋人との相引きの時間を心待ちにするひとりの女の顔をしているような気がして恥ずかしくて堪らなかった。
それから巾着の1番奥に須磨さんからもらった所謂
"精力剤"
を巾着に忍ばせた。
「…行こう」
誰に言うでもなくそう呟いた私は
ふぅぅぅう
と、長く息を吐き、炎柱様との待ち合わせ場所に向かうため、住まいである長屋を出発した。
待ち合わせの場所に行くと、早めに着いたのにも関わらず炎柱様の姿がもうそこにあった。
…やっぱり素敵な人だな
風に靡く獅子のような髪も、特徴的な凛々しい眉も、意志の強い燃える様な瞳も、口角の上った可愛らしい口元も…全てが私の目に魅力的に映る。
あんなにも苦手意識を持ち、怖いとすら思っていたのに。頭に響く嫌な声だと思っていたその声も、今では頭だけではなく、耳の奥に、そして胸に甘く響き、私の心を震わせる。
炎柱様の気持ちを受け止められたら…私のこの気持ちを正直に伝えられたら…幸せに…なれるのかな…?
「…好き…です」
極小さな声で呟いた言葉は、炎柱様の耳には届かない。いや。届くべきじゃない。
その時、パッと炎柱様がこちらを向き、左目を黒い眼帯で覆い隠した隻眼と視線がかち合った。私の存在に気がついた炎柱様は顔を綻ばせ
「荒山!」
大きく手を振りながらこちらへと近づいてくる。
…私はこの後…あの人に抱いてもらうのか
そう考えると、感じたことのない熱いものがじわりと私の胸を侵食して行くような感覚に陥る。
「お待たせ…してしまいましたか?」
私がそう尋ねると
「いいや!君から誘ってくれたことが嬉しくてな。少しばかり早く来すぎてしまった!」
炎柱様は、声を弾ませそう答えた。そんな様子に
…本当に…素直で可愛い人
私の胸はトクトクと甘酸っぱい音を響かせる。
…だめ…落ち着かなきゃ
私は一度炎柱様から視線を外し、目を瞑ると
スゥ…ハァ…
深呼吸をした。