第9章 燃やして欲しい、私の全て※
「だから最初の男はお前が、自分で選べ」
「…っ…選べって…そんな無茶な…!」
戸惑い狼狽える私に
「いいや無茶じゃねぇ。つぅか真っ先に頭に浮かんだ相手、いんだろ」
天元さんは、まるで私のことなんてお見通しだと言わんばかりの口振りでそう言った。
「…っ…」
図星だ。
この身を捧げても良いと思う相手なんて、1人しか思い浮かばない。
「あれだけお膳立てしてやってんのになんでまだくっついてねぇんだよ。お前らちょこちょこ飯食いに行ってんだろ?この俺がそれを知らねぇとでも思ったか?」
天元さんは座卓に頬杖をつき、さも呆れたと言わんばかりの表情で私のことを見ている。
「っそれは…そうなんですけど…別に約束したとかそう言うのじゃなくて…!何故か私が任務を終えて長屋に帰ると…炎柱様がいるんです!任務がある事も、終えた事も、言ったことがないのに!」
"おかえり!怪我はないか?"
"おかえり!思ったより早かったな!"
"おかえり!随分とよごれているな!"
次は必ず断ろう
毎回そう思うのに、長屋に戻った時に炎柱様から掛けられる言葉をまた聴きたいと思ってしまい、どうしてもそうすることができなかった。
相応しくない、これ以上はだめだと思いながらも、共に時間を過ごしたい欲求に抗えず
"ではまた!"
と、私を長屋に送り届け、去っていく背中が見えなくなるまで見送ってしまっていた。任務を終えて長屋に戻った時、炎柱様の姿がないか、必ず探してしまっていた。
「良かったじゃねぇか。煉獄はお前に気がある。お前も煉獄に気がある。さっさとくっついちまえば良いものを、何をぐずぐず悩んでんだ」
ぐずぐず悩んでいる。
全くもってその通りだと思う。自分自身でも自分に対し
もういい加減にしなよ
と、言ってしまいたい時がある。
「…私だって…本当は……」
それ以上は言葉にすることができず、ぎゅっと両手を握りしめ、グッと唇を噛み締め黙り込んだ。
「兎に角だ。時間に余裕はねぇ。3日以内に俺が出した条件を達成出来なければ…俺はお前を置いて行く」
3日以内に条件を達成する。それはつまり、3日以内に"炎柱様に抱かれろ"と、そう言うことを示していた。