第9章 燃やして欲しい、私の全て※
「…条件…?」
一体どんな条件を突きつけられるのか、遊郭の知識があまりない私には見当もつかなかった。
…どんな条件だって関係ない。私は絶対…何があっても遊郭に行くんだから…!
「…教えて下さい!条件とは…どんなものなんですか!?」
天元さんはしばらく黙って私の顔を見た後
「こいつならいいと思う相手と情を交わして来い」
「…え?」
そう言った。
「それが出来なけりゃ連れて行かねぇ」
一瞬聴き間違えたのかと思った。けれども、私の耳がこんな近距離で聴き間違えるはずがない事を、私自身が1番理解している。
「…っ…どうして…それが条件なんです?」
"そんな無茶な条件あり得ない"、と言うつもりはない。雛鶴さんまきをさん須磨さんを追って遊郭に行く。それは即ち、私も客を取りそういった行為をする可能性が少なからずあると言うことだ。
本音を言ってしまえばそんな事は絶対にしたくない。それでも、その気持ちを超えてしまうほどに、私にとってあの3人は大事な存在になってしまった。
「よく聞け。俺はお前を、太鼓女郎として売るつもりだ」
「太鼓女郎…?」
「お前、箏弾けんだろう?宴会で箏やら三味線やら弾くんだよ。弾けたよな?」
「っ弾けます。昔、お世話になった奉公先の女将さんに教わりました!」
「俺がなんとか上手いこと言って客は取らせないように言う。だが、一度買われちまったらお前はその店の商品。それが守られる保証はねぇ」
天元さんはそう言いながら私に鋭い視線を寄越してくる。
「よく聞け荒山。遊郭に来る客はな、俺様みたいに派手にいい男ばかりじゃねぇ。決まりに反して酷ぇことする男も中にはいる。お前は普通の女だ。…いや、男に関しては普通以下だ。そんなお前に、なんの経験もなしに遊郭に行けと言える程、俺は酷ぇ男じゃねぇ。つうかそんなことを俺が許したってあいつらが知ったら、流石の俺も何されるかわからねぇ」
「…確かに…少なくとも怒りはするでしょうね…」
雛鶴さんまきをさん須磨さんの3人が私を守るように囲い、天元さんにそれぞれ文句を言っている姿が容易に想像できてしまった。