第9章 燃やして欲しい、私の全て※
炎柱様に遅れ長屋の前まで来ると、長屋の扉に、しっかりと鍵穴があることに気がつく。
…どうしよう…私…天元さんから鍵もらってない…
そんなことを考えながら鍵穴をじっと見ていたが
「うむ。ここだな!」
「…へ?」
私の横で着物の袖の袂をゴソゴソといじっていた炎柱様の手に、何やら鍵のようなものがしっかりと握られているのが目に入った。
…え?炎柱様が持ってるのって…鍵…だよね?え?何?まさか…ここの…鍵…?いやいや!まさか…まさかねぇ…
自分の頭に浮かんで来た考えを打ち消しながら炎柱様の動向を見守っていると
…カチャ
「よし!」
いやいや…よしじゃないし
ガラッ
炎柱様はさも当然のことのように長屋の扉を開き
「さあ!入るといい!」
いつも通りの、口角をほんのりと上げ、笑顔にも見えるお決まりの表情を私に向けながらそう言った。あまりの衝撃に、何も言葉を発せずにいた私だが
「…っ…おかしいですよね!?」
混乱しながらも、ようやくその一言だけ発することが出来た。
「む?何がだ?」
炎柱様はそんな私の様子を不思議そうな表情を浮かべながら見ている。
「む?じゃないですよ、む?じゃ!どうして私がこれから住む長屋の鍵を炎柱様が持ってるんです!?」
そんな風に聞きはしたものの、理由はともかく、誰の差金かなんてことは聞かなくてもわかりきっている。
「宇髄から荒山に渡して欲しいと昨日預かったのだが…聞いていないのか?」
キョトンとしながらそう答える炎柱様に
…天元さんに揶揄われてるの…わかってないのかな…?
と、なんだか心配にも似た気持ちになる。
「…聞いていません」
「そうか!それは驚かせてしまったな」
腕を組み、わははと笑っている炎柱様は本当に人がいい…いや、よ過ぎると思った。
「…"そうか"…だなんて言っている場合じゃありませんよ?炎柱様、隊士の稽古も始まってお忙しい身でしょう?天元さんの揶揄いにのっている場合じゃありませんよ?」
半ば呆れながらそういうと
「よもや!俺は揶揄われていたのか!それは気が付かなかった」
炎柱様は僅かに驚いた表情を浮かべそう言った。