第9章 燃やして欲しい、私の全て※
炎柱様はそんな私の言動にはすっかり慣れてしまったようで
「それはよかった!」
私の嫌味など全く意に介さずいつも通りの表情でそう答えた。そんな炎柱様に
「…それで、どうしてここにいるんですか?」
不機嫌を装いながらそう尋ねる。すると炎柱様は
「宇髄に頼まれた」
と、答えた。
「…っ…天元さん…ですか…?」
「うむ!正確に言うと奥方に頼まれた宇髄に頼まれた、と言った方が正しいな!」
「…雛鶴さん達が…?」
「あぁ」
”どうしてそんなことを?”
なんて馬鹿な事を聞いたりはしない。雛鶴さんまきをさん須磨さんが、天元さんを介して炎柱様にここに来るように頼んだ理由なんて、聞かずとも、考えずともわかりきっている。
…私の為に…私が…寂しいって思うのをわかってて…炎柱様にここに来るよう言ってくれたんだ…
実際に私は、先ほど長屋の前に佇む炎柱様の姿が幻覚であって欲しいと思うと同時に、炎柱様がそこにいることが嬉しいと感じてしまっていた。雛鶴さんまきをさん須磨さんに会えなくなったことを寂しいと思う気持ちを、炎柱様が来てくれたという喜びの気持ちで和らげることが出来てしまったのだ。
…私…本当にだめだな…
そのことが、自分の気持ちにどんなに抗おうと、どんなに目を逸らそうと、もう引き返すことが出来ないところまで来てしまっていることを示しているようだった。
そんなことをぼんやりと考えていると
「…っあ!ちょっと!」
肩に掛けていた荷物を炎柱様にあっという間に奪われ
「早く片づけを済ませ何か食べに行こう!」
家主になるはずの私を置いて、さっさと先ほどまでいた長屋の方へと歩いて行ってしまう。
「…もう…!」
口ではそう文句を言いながら、やはり私はこの状況をどうにも嬉しいと思う気持ちを隠すことが出来ず、口角が上がってしまいそうになるのを懸命に抑えた。