第9章 燃やして欲しい、私の全て※
元々荷物の量は少なく、引っ越しの荷物を纏めるのにそう時間はかからなかった。長屋はもう既に天元さんが手配してくれており、もう住める状態になっているという(あのムキムキネズミ達が準備してくれたというから驚きだ)。
荷物を持ち、忘れ物がないかを確かめる為に室内をぐるっと見回す。
…うん。大丈夫
確認を終え、荷物を肩に掛けその状態のまま草履に足をいれ、扉まで行き、外に出た。くるりと振り返り
…また…戻って来たいな
そう思いながら
「…じゃあね」
すっかり住み慣れた”私の家”にそうひとこと告げ、扉を閉めた。
音柱邸には鍛錬でほぼ毎日来る予定ではある。けれどもここは、離れは違う。雛鶴さんまきをさん須磨さんが無事に戻って来た暁には、どうかまたここで一緒に暮らしたい…そんなおこがましいことを考えながら、肩からずり落ちそうになる荷物を掛けなおし、今日から私の新しい住まいとなる、ここから歩いてそう遠くない長屋へと向かった。
「………は?」
目的の長屋までもう少しというところまできた私は、我が目に映ったその人物の姿に驚愕した。
…いや。あれはきっと…幻覚。そう…そうに決まってる
雛鶴さんまきをさん須磨さんと会えなくなってしまったショックでちょっとおかしくなっているに違いないと自分に言い聞かせてみるも、心の中では幻覚でないと理解してしまっているようで、その姿が目に映った時から私の足はピタリと止まってしまっていた。
…一旦引き返そう
そう結論付けた私は来た道を戻ろうと身を翻そうとした。
のだが
「荒山!」
幻覚だと思いたかったそれは、当然幻覚ではなかったようで
ビュッ
後方から風を切る音が聴こえ、逃げても無駄だろうと早速悟った私は再びピタリと足を止めた。
「久しいな!元気だったか?」
パッと眼前に現れた炎柱様に開口一番そう尋ねられ
「こんにちは炎柱様。そこまで久しぶりだとは思いませんが、見ての通り元気です」
相変わらずの可愛げのない返事をしてしまう。