第9章 燃やして欲しい、私の全て※
任務から戻ると、やはりもう雛鶴さんまきをさん須磨さんは遊郭へ発った後だった。
しっかりと施錠され、誰の気配も感じなくなってしまった母屋は昨日までとは一変し、私にとっての安らげる場所では無くなってしまった。
…寂しい
そんな感情を抱くのは久しぶりだった。
逃げるように母屋の扉から手を離し、離れへと向かい
ガラッ
と、いつもよりも乱暴にその扉を開けた。脱ぎ捨てるように草履を脱ぎ、部屋に入る。
その時ふと
「…っ…あれは…!」
座卓の上に麻袋が置いてあるのが目に入り、狭い部屋をバタバタと駆けそこへと向かった。
麻袋の横には置き手紙があり
"任務であまり無茶をしないようにね"
"何かあったら天元様にちゃんと頼るんだよ"
"寂しかったら炎柱様に甘えて下さいね"
と、雛鶴さんまきをさん須磨さんの文字でそれぞれ綴られていた。
"炎柱様に甘えてくださいね"
「…っ…知ってたんだ…」
須磨さんのその言葉は、私が言えず隠していたこの恋心を、3人にとっくに知られてしまっていたことを示していた。
…だったらもっと…相談しておけばよかった
そんなことを考えても、もう3人は簡単に会えない場所へと行ってしまった。
…うぅん。そんなことを考えてもしょうがない。次に会える時までの…楽しみにしておこう
そう考えると、私も私のやるべき事をしなければと思えた。
置き手紙から隣の麻袋へと視線を移し、その袋をそっと開けてみると
「…っ…こんなに…たくさん…」
3人お手製の止血剤、増血剤、解毒薬、その他滋養剤までたくさんの薬が入っていた。
それらを作ることが簡単ではないことを私は知っている。材料を調達するのも、調合するのも、きっと大変だったはず。
「…ありがとう…ございます…」
雛鶴さんまきをさん須磨さんの愛情がたっぷりと詰まった麻袋をギュッと胸に閉じ込め、優しい、明るい、元気のもらえる3人の笑顔を思い浮かべながらその場にうずくまるように小さくなった。