第8章 響かせろ、もっと遠くまで
そんな事を考えている間に、気づくと私の視線はすっかりと地面へと向いてしまっていた。
「慌てる必要はない」
耳心地がいい凛とした声に視線を上げると、私のことを見ていた炎柱様と視線が合う。
「前線は退いたとはいえ鬼殺隊に身を置く限りいつなんどき命を落とすかわからない。だから本心を言ってしまえばすぐにでも荒山の本音を引き摺り出したい」
そう言った炎柱様の瞳は、いつも以上に強い目力を有しており、私の心の奥底の本音なんて見えてしまっているような気さした。
「だがそんなことをするのは俺の本意ではない。俺は荒山が心から安心して側にいれる…そんな存在になりたいんだ」
「…っ…」
好き。
その声も
その瞳も
その優しさも
その強さも
全部全部好き。
それを伝える強さが今の私には足りない。それでも
さっきは感情に流されて思わず言っちゃいそうになったけど…自信を持って…"あなたの事が好き"って…ちゃんと言える自分に…いつかなりたい…
心の底からそう思った。
"もう少しだけ時間を下さい"
と、伝えようと口を開きかけたその時
「なんや、2人ともええ仲やったん?」
鉄珍様のそんな声が耳に届き
「…っ!」
私は自分が今どこにおり、誰といるのかを思い出した。
…馬鹿!私の…馬鹿ぁ!やっぱり誰かに恋焦がれるなんて碌なもんじゃない…!…怖いくらい周りが見えなくなっちゃう…
恥ずかしさで穴にでも入りたいと思う私の一方で
「今は違います!だがいずれそうなる予定です!」
炎柱様は、いっさいの曇りを感じない声色でそう言った。
…うん。そうよねそうだよね…炎柱は…全然平気だよね
そんな事を考えていると
「そら残念や。鈴音ちゃんええ子やし、みたらし団子好きっちゅうから、うちの蛍をもらってくれんかなと思っとったんやけど」
「蛍をもらう?」「…え?」
鉄珍様の口から紡がれたまさかの言葉に、私だけでなく、珍しく炎柱様も驚いたようで、鉄珍様の方へ、私と同時に顔を向けていた。