第8章 響かせろ、もっと遠くまで
炎柱様は私の言葉に、いつも見開かれがちのその目をさらに見開き驚いたような表情を見せる。その表情に、私は自分の口から出てきた言葉達が何やらとても恥ずかしいもののような気がしてきた。
「…っ私だけではありませんよ!?善逸に炭治郎君に伊之助君…ほかにもたくさん!炎柱様に稽古をつけてもらえる日が来るのを楽しみにしている隊士はたくさんいるはずです!」
慌てて言ったそれらの言葉は、なんだか言い訳がましくも聞こえてしまいそうだが、嘘偽りは一つもない。炎柱様は
「ありがとう!荒山にそう言ってもらえるのは何よりも嬉しい!いつでも、毎日でも、俺のところに稽古に来るといい!」
そう言って私に太陽のように暖かな笑みを向けてくれた。
「…っ…」
その表情に胸が高鳴り、同時に、忘れかけていた先ほどの工房前でのやり取りが蘇ってくる。
…だめだ。やっぱり一緒にいると気持ちの抑えが全然効かなくなって来ちゃう。さっきは思わず好きって言っちゃいそうになったけど…思いを伝えて、お互いに好き合ってるってことを確認し合えば…欲張りになるに決まってる。そんなの、これからたくさんの隊士を育てていく炎柱様の邪魔になるかもしれない。それに…その隊士たちが私みたいなのが炎柱様の恋人だなんて…認めてくれるはずがない。
うじうじと言い訳ばかり並べ自分の気持ちからも、そして炎柱様の気持ちからも逃げようとしる自分が嫌になる。それでも、どうしてもあと一歩が踏み出せない。先にある幸せになれるかもしれない未来よりも
周りの目が
立場の差が
どうしようもなく怖い
でもそれ以上に
一度手に入れた幸せが
無くなってしまう事が
怖い
手元から消えてなくなってしまうその未来を想像すると、前にも進むことができない。そして段々と大きくなっていく気持ちで、後ろにも進むことができない。
…私は…一体どうしたいの…?