第8章 響かせろ、もっと遠くまで
蛍…蛍?蛍ってさっきの?…っ無理無理無理!あり得ないから!声も、背もでかいし!なによりもあの詰め寄ってくる感じ…私が最も苦手な人種だから!
なんて事がお世話になった鉄珍様に言えるはずもなく、ただただ黙り込んでしまう。そんな私の隣で
「いくら鉄珍様の希望とて、それは了承いたしかねます!荒山は何があろうと俺と恋仲になってもらいます!絶対に!」
辺りに響き渡らんばかりの声量でそう言った炎柱様に
…もう…なんなのこの人…
眩暈がしそうだった。
「そっか。そら仕方ないね。杏寿郎ちゃん、蛍よかいい男やし…鈴音ちゃん幸せ者やね」
「はい!」
いや。そこ私が返事するところだから。自信満々に勝手な事言わないでよね。ちょっと…待って。蝶屋敷でもあの天麩羅屋さんでもここでも…炎柱様のせいで誤解されてばかりな気がする。
ジトリと疑うような視線で炎柱様の事を見る。
「どうかしたか?」
「…ひょっとして炎柱様…外堀を…埋めようとしていません…?」
私がそう尋ねると
「いいや!そんな事はない!断じてない!」
炎柱様はやけに早口、尚且つ、いつも大きな声をさらに大きくしながらそう答えた。その様子が、私が辿り着いた結論が間違いでないことをしっかりと物語っている。
「…っズルいです!ズル!炎柱様の…ズル!」
「わはははは!」
「ちょっと!どこ見てるんです!?こっち見て下さい!炎柱様っ!」
「わはははは!」
「仲良しやね。ええことや」
「鉄珍様!違うんです!」
「わはははは!」
「もう!炎柱様五月蝿い!」
こうして私は、結局ここでも誤解を解けぬまま
炎柱様になんてもう絶対会わないんだから!
と、心に決め"また会いに行く!"と私の背中に向け叫ぶ炎柱様に答えることなく刀鍛冶の里を後にした。
その後偶然にも私を運ぶ担当の中にいた苗場さんに"お前炎柱様と恋仲になったんだって?"なんて質問を投げかけられ、"違う!違うんです!もう嫌!"と、必死で否定することになるのをのはもう少し先の話である。