第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「杏寿郎ちゃん、びっくりするくらい似合わんね」
今まで黙って私たちの様子を見ているだけだった鉄珍様が発したそんな言葉に
…私もそう思います
心の中でそう答える。
「そうだろうか?それにしても軽い。包丁でも持っているようだ」
「鈴音ちゃんの要望やからね。片方ならしのぶちゃんのよか軽いよ」
「そうなのか」
炎柱様は私の動きを真似るように日輪刀を振ると
「うむ!確かに荒山にぴったりな日輪刀だな」
そう言いながら2本の刀を一旦右手だけで持ち、私が炎柱様に渡したときと同じように刀身の向きを受け取りやすいように変え、再び左右に持ち直すと私の方に差し出してくれる。
「ありがとうございます。炎柱様も、早く日輪刀が戻ってくるといいですね」
そう言いながら刀を受け取り、腰に差し込んである鞘へと刀身を収めた。
「そうだな!実戦で使う機会はかなり減るだろうが、やはり隊士を育成する立場の人間として、日輪刀を所持していないのは恰好がつかん!」
ごく当たり前の事のようにそう言った炎柱様に、私の胸はツキリと痛んだ。
機能回復訓練を終えた炎柱様は、私から見れば元の炎柱様とそう変わらないような気さえする。それでも自分の身体の変化を誰よりも、いやという程理解しているのは炎柱様自身だ。隻眼になってしまった今、視界だって確実に狭い。だからこそ、自分が前線に立つことよりも隊士の育成に専念することを選んだはず。今まで最前線を走って来た人が、支える立場に変わる。その決意をするのはきっと容易なことではないはず。特に、炎柱様のような方であれば尚更だ。
…そんな風に…言わないで…
俯いてしまいそうになる顔を上げ、炎柱様の目をじっと見つめる。私の視線に気が付いた炎柱様は穏やかな表情から真剣なそれに変わり、私がそうするのと同じように目をじっと見返してきた。
「…恰好がつくとかつかないとか…そんなことは関係ありません。炎柱様がいてくれるだけで…もっと頑張ろうって…強くなろうって…そう思えるんです」