第8章 響かせろ、もっと遠くまで
和がとまりやすいようにいつものように左腕を出してあげると
バサッ
大きな羽音を立て、私の腕に降り立つ。
「刀の仕上げ終わったって~。早いけど取りに来なさいって鉄珍さまが言ってたの~」
「…っうん!わかった!すぐ行く!」
…助かった…私さっき…完全に炎柱様に好きって言おうとしてた…
何も知らない和は私に向けていたその小さな顔をクリンと炎柱様に向け
「炎柱様こんにちわ~」
「…あぁ。こんにちは」
「相変わらず凛々しくて恰好いいのぉ~」
「君も相変わらずかわいらしいな」
「嬉しいの~それじゃあさようなら~」
「…うむ」
相も変わらずのほほんとした様子で、気の抜けるような会話を炎柱様と繰り広げている。
…炎柱様をも圧倒するマイペースさ…和ったらなんて子なの
関心にも近い気持ちを抱く私の視界に、なんとも言えない顔で和の事を見ている炎柱様の顔がちらりと映り込んでいる。初めて見る炎柱様そんな表情に、なんだか新鮮な気分になった。
和が来てくれてたことで、あのなんとも言えない甘い雰囲気は完全になくなり、心の中で密かに”ありがとう”と和にお礼を述べた私は、
「…ということで、私は鉄珍様のところに日輪刀を取りに行くので、ここで失礼します」
そう言って、何事もなかったように炎柱様に別れの挨拶をした。炎柱様は、そんな私の顔を
じぃぃぃぃ
と、無言で見てくる。無言ながらも確かに感じる炎柱からの圧力に、私は逃げるように視線を外す。もうとにかくこの場を去るしかこの状況を打開する方法はないと判断した私は
「ではまた」
そう言い捨てた後、炎柱様に背を向けスタスタと歩き始め…ようとした。
パシリ
「俺も共に行こう!」
捕まれた右手首と、耳に届く炎柱様の言葉に
「…ですよね…わかりました。一緒にはいきます…でも、その手は放してください」
こうなることは大体予想はついていたので、私は準備していた通りの言葉を並べていく。