第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「さっきは…助けてくれてありがとうございました」
工房を出て真っ先に、私の前を歩いていた炎柱様に先ほどのお礼を述べた。炎柱様は私のその言葉を聞くと、私が先ほどギュッと掴んでいた羽織を靡かせ、ゆっくりと私の方へと振り返る。
「いや。構わない。君がおびえているように見えて俺が我慢ならなかった…それだけだ」
炎柱様は腕を組み、口角をいつもより僅かに高く上げながらそう言った。
…好きだなぁ…
ただでさえもう抑えるのが難しくなっていた感情は、先程の出来事でより抑えることが難しくなり
「…何か言いたそうな目だが…」
私のそんな感情が、すっかりと表情に出てしまっていたようだ。炎柱様は普段は大きく見開かれている目を優し気に細め、私のそれをのぞき込むように見つめ返してくる。そして炎柱様は
「それを口に出してもらうことは可能だろうか?」
私に向け、甘くささやくような声でそう言った。
「…っ…」
私の胸はドキドキと身体全体にその音を轟かせるように鳴り始め、ソワソワと落ち着かない一方で酷く心地の良いような不思議な感覚に陥る。
…もう…言ってしまいたい
この気持ちを…伝えてしまいたい
溢れて止まらない気持ちが
”私なんて”
”私なんか”
”こんな私じゃ”
後ろ向きな感情を上回ろうとしていた。
「…あの…っ…私…」
言葉を詰まらせる私を
「…なんだろうか」
炎柱様は急かすことなく、穏やかな表情を浮かべ言葉の続きを待ってくれている。
”炎柱様の事が好き”
そう口にしようと口を開いたその時
「鈴音~!」
「…!」
上空から聞こえてきた和の声に、開きかけていた口をギュッと噤んだ。