第8章 響かせろ、もっと遠くまで
私は、日輪刀を打ち直してくれるのは鉄穴森さんだと思い込んでいた。じぃちゃんの元で学んだ雷の呼吸の型を使う時に、元々使っていた日輪刀に不満を抱いたことなど一度たりともない。それどころか、鉄穴森さんの手によって研磨された刀も、そして鉄穴森さんのあの物腰の柔らかな喋り方もとても好きだった。
中には担当の刀鍛冶とそりが合わず、担当交代を願出る隊士もいるという。だから私の刀を打ち直すのが、鉄穴森さんではなく鉄珍様だと聞いた時
鉄穴森さんに誤解されていたらどうしよう
と、そんな不安が湧いた。
鉄穴森さんにが何を思っているのかを考えれば考えるほど、私の心と身体はだんだんと不安な気持ちに支配され冷たくなってく。
けれども
「謝る必要などどこにもありません。私は初めてあなたにお会いした時から、こんな日が来るんじゃないかと思っていました」
鉄穴森さんは、穏やかな口調でそう言った。そんな鉄穴森さんの言葉に、下げていた頭をあげ、鉄穴森さんの顔を見ると、やはり再び無機質なひょっとこの目と目が合う。
「荒山さんのお噂は耳にしております。桑島様と私の当初の見立て通り、派生の呼吸を扱うようになったとか。そして忍のような動きをする。そうなると、通常の日輪刀では動きにくいことは明白です。そんな風に気にする必要はありません。…ですが、そのように気にしてもらえるとは元担当刀鍛冶として大変嬉しいことでもあります」
鉄穴森さんが心からそう思っていてくれることが、纏う雰囲気から感じ取ることができ
「…ありがとうございます…」
私の胸に出来ていたしこりが、ポロリと落ちてくれたようなそんな気がしたのだった。
そんな出来事を経て、時間が空いた際にはこうして鉄穴森さんが刀を研ぐ音を、鉄穴森さんがいない時には別の刀鍛冶の方が刀を研ぐ音を聴かせてもらうという、そんな心安らぐ時間を過ごしていた。