第8章 響かせろ、もっと遠くまで
ここだ…。
辿り着いたのは民家とは少し違う、変わった造りをした建物だった。きちんと聴くまでもなくその建物の様子と、聞こえてくる音から
…ここ…刀を打つための…工房なんだ
そううかがい知る事ができた。
仕事をする邪魔をしてはいけないと思いながらも、どうしても、どうしても音の出どころが気になって仕方ない私は
「失礼します」
工房の扉を恐る恐る開いた。
扉を開くや否や
カンカンカンカン
キンキンキン
ジョワー
ジャコッジャコッジャコッ
たくさんの音が私の耳に聴こえてくる。
…音が…溢れてる…
その中には苦手な種類の音もあった。けれどもそれ以上に
ジャコッジャコッジャコッ
その音に猛烈に興味を惹かれた。
音の出どころはもうわかっている。この音は、刀を研ぐ音だ。そして刀を研いでいる人は3人いるが、その3人の発する音は似ているようで微妙に違う。
速さ。
強さ。
そしておそらく研ぐ人間の腕。
私が最も心惹かれたのは、入り口から見て1番奥にいる人が出す音だった。
仕事をしている人たちのじゃまにならないよう、なるべく気配を殺し、足音を立てずにその人へと近づいていく。刀鍛冶達は、私が気配を殺しているからか、はたまたみなそれぞれ自分の仕事に没頭しているせいか、外から人が入って来たことに全く気がついていないようだ。
道具にぶつかったり、ましてや蹴飛ばしたりしないよう注意しながら目的の場所へと歩みを進める。
ジャコッジャコッジャコッ
…この音。この音がすごく好き。
好きな音はいくら聴いていてもまったく飽きが来ず、ずっと聴いていられるものだ。邪魔にならないよう建物の1番角、音を聴くのにはちょうどいい場所に腰掛け、1番聴きたい音だけに神経を集中させた。
ジャコッジャコッジャコッ
…幸せぇ。
その音を聴き始めてどれだけ経ったのだろう。
「出来ました」
刀を研ぐのが無事終わったのだろう。刀鍛冶の男性は、刀を右手で持ち、刀身全体の具合を確認するように天井の明かりに刃先を翳した。
「…上出来です」
そう言いながらぐるりと振り返った男性と
「…あ…こんにちは…」
私の目がパチリと合い
「…荒山…さん?」
私の存在がようやく認識された。