第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「確認だぁ?何をだよ?」
しょうもない質問だ。もしかしたら"んな阿保な質問してくんな"と、天元さんに怒られてしまうかもしれない。それでも
「…私が留守の間に…雛鶴さんまきをさん須磨さんが…いなくなったりはしませんよね?」
そう聞かずにはいられなかった。
天元さんは、私が確認したかった事の内容がよっぽど意外だったのか、ポカンとした表情を浮かべたまま動かなくなってしまった。
けれども
「…まだ大丈夫。私たちが、鈴音に黙っていなくなったりするわけないでしょ?」
そう言いながら雛鶴さんが
「…ったく。何余計な心配してんだい。さっさと日輪刀取りに行って、さっさと帰って来な」
まきをさんが
「しません!絶対にしません!むしろ一緒に連れていきたいくらいです!」
須磨さんが、そう言いながら天元さんの元から離れ、私の方へと近づいて来てくれる。
その行動に
「…っ…」
嬉しくて涙が出てきそうになった。
私は天元さんの継子だからという理由で、この音柱邸の離れに住まわせてもらっているただの居候に過ぎない。だからそんな質問をしてしまうこと自体、愚かな行為なのかもしれない。
それでも私は、そんな愚かな問いを口に出してしまえるほどに、雛鶴さんまきをさん須磨さん…そして天元さんと過ごす時間が大切なものとなってしまっていた。
…実の父親と母親にすら…こんな風に思ったことないのに
私の背中に左手を添えてくれている雛鶴さんに。私の左肩に手を置いてくれているまきをさんに。私の両手を握っていくれている須磨さんに。
「…みなさん大好きです」
自分の抱く素直な気持ちを、自然と口にすることができた。
「私たちも、鈴音の事が好きよ」
優しく微笑みながらそう言ってくれる雛鶴さんに同意を示すように、まきをさんと須磨さんはうなずいていた。
そんな私たちの様子を腕を組みながら見ている天元さんの
「ったくよぉ。俺の嫁達の前でそんだけ素直になれんなら…あいつの前でももっとそうなってみろ」
そんな言葉に
「…それができたら…こんなに悩んでいません」
極小さな声で、私はそう答えたのだった。