第8章 響かせろ、もっと遠くまで
…入れ違いになってくれることを…祈るしかない。
そんなことを考えている私を尻目に
「あそこの温泉饅頭はとても美味いからなぁ…つい手が出てしまう。まだ食べ過ぎてはならないと胡蝶から言われているが…果たして我慢できるだろうか」
なんてことを言いながら目をつぶり、真剣に悩んでいる柱様の事を
…なにそれ…子どもみたい
とても可愛らしいと思ってしまう自分がいたのだった。
そうしてようやく炎柱様から解放された私は、音柱邸にたどり着き、いつものように母屋の扉を開けようとした。けれども
ガタッ
…あれ?開かない。
珍しく母屋の扉は施錠されており、気配を探ってみると誰の気配も感じない。
3人ともいないなんて…珍しいな
そう思いながら、扉から手を放し、離れへと向かった。
そうして明日持っていく荷物をまとめていると
”あぁあ!まきをさんそこは私がいたところです!今すぐどいてください!”
”はぁ!?あんたが勝手にどいたんでしょ!?勝手な事ぬかしてんじゃないよ!”
”もう!いちいちそんなことで喧嘩しないで頂戴!”
帰ってきた!
賑やかな声が外から聞こえ、粗方まとめ終わった荷物を部屋の端に置き、草履を急いでひっかけ外に出た。そのまま屋敷の門の方へと向かうと、丁度天元さん、雛鶴さん、まきをさん、そして須磨さんがそれを潜るところだった。私は4人に駆け寄り
「皆さんお帰りなさい!4人でお出かけなんて珍しいですね」
何の気なしにそう言った。その時
「…っ…」
須磨さんが一瞬、息を詰まらせた音が聴こえてしまった。その反応は
もうすぐ…なんだろうな
私をその考えに至せるのには十分なものだった。