第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「うむ!元気と言える状況ではなかったが、今はこうして元気だ!」
「そうかい。それはよかったよ。その眼帯もいい男がより際立って素敵だねぇ」
「わはは!それは光栄だ!」
そんな炎柱様と女将のやり取りを、先ほどの光景を見られてしまった羞恥心からうつ向きがちに聞いていると
「…ん?あんたは……あれ?」
女将さんは、じぃーっと観察するような視線を私の横面に向けてきた。
「む?どうした?荒山と女将は知った仲ではないのか?」
「あっ…いや…もちろん…いつも良くしてもらっています…」
だからこそあんな姿を見られて恥ずかしいんじゃないっ!
そんなことを思っていると
「やだ!あんたよく見たら鈴音ちゃんじゃないかい!いつもと格好が全然違うからわからなかったよ!」
女将さんは目を丸くし、興奮した様子でそう言った。
「…女将さん…こんにちは」
普段ここに立ち寄る際は大体着物姿である私と、蝶屋敷でわざわざ着るものを借りるのは忍びないという理由から、隊服姿できた今日の私が一致しなかったらしく(ならば俺も隊服にすると、結局炎柱様も隊服姿に落ち着いた)、女将さんがまるで本当に私かどうかを確認するかのように顔を覗きこんできた。
…だめ!まだ見ないでぇ!
そんな心の声が聞こえるはずもなく
「…やっぱり鈴音ちゃんだねぇ。…でも、なんだか顔がいつもよりか赤いねぇ」
女将さんは、未だに熱さの納まらない私の顔を見ながらニコニコと楽し気に微笑んでいた。
「…っ女将さんの気のせいです!」
「そうかいそうかい。じゃあそういうことにしておいてあげるよ。で、2人はうちの天婦羅を食べに来てくれたんでしょ?」
「うむ!ようやく好きなものを食べていいと許可が下りてな!退院して一番初めに食べるのは、この店の天婦羅と決めていた!荒山と一緒というのが尚いい!」
「…ちょっ…!」
…余計なことを…っ!
炎柱様の明け透けな言葉に、含み笑いを浮かべを浮かべた女将さんは
「若いって良いわねぇ。さ、お店の中に入りなさいな」
そう言って、人ひとり分しか開いていなかった店の扉を全て開いてくれた。