第8章 響かせろ、もっと遠くまで
炎柱様から2.3歩離れた位置で立ち止まりじっとその目を見つめ
「…食事にはいけません」
そうはっきりと告げた。私が断ったのにも関わらず、炎柱様は依然としてニコニコと太陽のような笑みを浮かべ続けている。
…何?なんで断ってるのに…そんな笑ってるの?…私に断られてもどうってことないってこと…?
「理由を聞いてもいいだろうか?」
”理由”
それはもちろん炎柱様と一緒にいればいる程、より好きになってしまうことが分かり切っているから。だから訓練、稽古、任務以外で関わりたくない。
なんてことが言えるはずもなく
「…行く必要性がないからです」
そんな言葉しか浮かんでこない。
「そうか!だが俺は荒山と食事に行く必要がある!」
愛想のかけらもない私のそんな言葉を全く気にする様子もなく、炎柱様はそう言った。
「…必要って…そんな大げさな…」
「大げさなことはない!蝶屋敷を出て一番最初に取る食事は君と一緒にと決めていた!その楽しみがあったからこそ、俺は腹が減っても勝手に見舞いの菓子を食べたり、千寿郎に食べ物をこっそり持ってくるよう頼んだり、病室を抜け出し鍛錬することも我慢した!」
「……」
炎柱様のその言葉に、機能回復訓練を手伝うようになって間もなく胡蝶様と交わしたやり取りがふと頭に蘇ってきた。
”鈴音さんのお陰で煉獄さんが勝手なことをしないので助かります”
”…そうなんですか?私…特に何もしていないと思いますけど…”
”そんなことはありません。鈴音さんにしか出来ないことですので”
”私にしか出来ないこと?訓練がですか?”
”まぁそんな感じです。さ、訓練訓練”
あの時はそこまで深く考えなかったし、”炎柱様と機能回復訓練をする”という事に気を取られてしまっていた。
…この事だったのね。というか胡蝶様は炎柱様と私の事…やっぱり気がついてるのか
恋仲でもないのに”炎柱様と私の事”なんて表現をするのはいささかおかしいような気もしたが、自分の中で炎柱様との現状をどう表現していいかわからず、そんな言葉を選択する他なかった。