第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「自身を過剰評価することは、自分自身、そして他者を危険にさらす危険な行為と言えます。ですが過小評価し過ぎることも、自分自身の成長を妨げ、何かをつかみ取る機会を自ら手放す愚かな行為と言えます。あなたはこれからもっと強くなれる、なるべき人間です。鈴音さんの優れた観察能力で、周りだけでなく自分自身をきちんと観察し、評価する能力も養ってください。それが出来なければ…身体を壊す前に、心が壊れてしまいますよ?」
そう言ってちらりと私の方を振り返った胡蝶様に
私なんかより…胡蝶様の方がよっぽど観察能力に優れてるじゃない
内心そんなことを考えながら
「………はい…」
忘れられない、無くならない、あの時から私の心に在り続ける傷痕がズキリと痛んだ気がした。
…わかってる。自分でもわかってるの…。だから私は…色んな意味で強くならなきゃいけない。…下ばかり…過去ばかり見てたら駄目。
目をつぶり、自分の心にそう言い聞かせた。
「ほら。鈴音さんがいつまでもそんなところでぼんやりしている間に、後輩3人が今にも限界を迎えてしまいそうですよ?」
胡蝶様のその言葉に、目を開け、激しい音を立てている発生源へと視線を向ける。
「ちょっと姉ちゃん!いい加減助けてよ!何一人で休んでるわけ!?姉ちゃんが一番強いんだからちゃんと戦ってよ!…ってぎゃぁぁぁぁあ!」
バチィィィン
ちらりと私のほうに視線を向けた善逸に、炎柱様は容赦なく打ち込んでいく。
「よそ見をしている余裕があるとは…いいぞ!もっと来るといい!」
「やだやだ!もう疲れたぁ!」
「情けねぇ奴だな!さっさと行きやがれっ!」
「ふっざけんなよお前っ!お前が姉ちゃんの話聞かねぇからこんなバラバラな動きになってんだよ!少しは指示に従え!」
「あぁ゛ん!?人のせいにすんじゃねぇよこのへなちょこっ…がぁぁあ!」
「二人とも喧嘩してる場合じゃ…っうわぁ!?」
「ぎゃぁぁあっ!」
炎柱様の強烈な一撃をまともに食らった3人が、団子になって鍛錬場の壁へと飛ばされていく。