第1章 始まりの雷鳴
「…っこんな素敵な羽織…もらって良いんですか?」
私がそう尋ねると
「当たり前じゃ。お前さんのために仕立てたものだ。受け取ってもらわねば、むしろ困ってしまうわい」
じいちゃんは目尻を下げながらそう言った。
「…ありがとうございます…大切に…大切にします」
私がそれを胸に抱きながらそういうと、じいちゃんが私の両肩にその手を置いた。
「鈴音。ここはお前の家じゃ。疲れたり、辛くなったらいつでも戻ってきていい。それから、必ず定期的に文は寄越すんじゃぞ?」
あまりにも、私にとって嬉しい言葉達に、込み上げてくる涙を我慢できるはずもなく
「…っはい…必ず…」
私はボロボロと涙を流しながらそう答える。
「…私…じいちゃんが授けてくれた力で…じいちゃんが…私にしてくれたように…っ…たくさんの人を…助けます…!…今まで…ありがとうございました…っ!」
私がそう感謝を述べると、
「礼を言う必要はない。それにその言い方じゃと、別れの言葉のように聞こえてしまう。もっと他に、相応しい言葉があるんじゃないか?」
じいちゃんのその言葉に、
「…それもそうですね。…それじゃあ」
私はできる限りの笑顔を浮かべ、
「…じいちゃん、行ってくるね」
そう告げた。
「…あぁ。行ってこい。もう一度言う。いつでも帰ってきなさい」
「…はい」
じいちゃん。大好き。
口に出すのはとても恥ずかしく、私は心の中でそう呟いた。
翌朝。
朝稽古を終え、小川で顔を洗ってる私の元に
「荒山鈴音〜、森の奥にある小さな里で人が消えている〜!南に向かえ〜南に向え〜」
若干調子の外れた声で、鴉が任務を告げに来た。それは同時に、私がとうとうこの家を発つ時が来た事を示している。
「…なんかさぁ、姉ちゃんの鴉…ちょっと喋り方変じゃない?」
「でしょ?でもね、そこがなんとも癖になって…」
スッと腕を伸ばすと、バサリと羽音を立て、鴉がそこに降り立つ。
「性格も、ちょっとのんびりしてるみたいで…"和"って言う名前なんだって。この子にピッタリ」
そう言いながら人差し指で頭を優しくカリカリしてあげると、もっとやってと言わんばかりにさらに擦り付けられる。