第1章 始まりの雷鳴
「でもね…今は違うよ。だって今の私には、じいちゃんと善逸がいるから。じいちゃんに強さをもらったから。この力で、たくさんの人を助けるの。誰かの役に立てる人間になるの。…そうすれば、大っ嫌いな自分のこと、少しは好きになれる気がする」
そう言って笑う私に、
「…姉ちゃん、どこまで俺と似てるわけ?」
グズグズと鼻を鳴らしながら善逸はそう言った。私は、そんな善逸に向かって
「そんな鼻水泣き虫小僧と、一緒にしないでくれる?」
いたずら心を詰めそう笑いかける。
「っひど!いくらなんでも酷すぎない!?」
善逸も、先程までの沈んだ表情はすっかり消え去り、その顔に笑みを浮かべながらそう言った。
「…ふふっ。冗談だよ!」
「全然冗談に聞こえなかったんだけど」
そう言って唇を尖らせながらあさっての方向を見る善逸の手を取り
「…最終選別、頑張ってね。善逸なら必ずできる。じいちゃんも私も、善逸の才能を信じてる。私は先にここを出るけど、また必ず会えるって信じてるから。桃のなる季節が来たら、また2人で…うぅん。じいちゃんと3人で…食べようね」
ギュッと、強くその手を握った。
「…うん。俺、頑張るよ」
"その辺走ってから帰る!"
珍しくそんな事を言う善逸と別れ、私は1人家路についた。家に着き、玄関の戸を開け、
「ただいまぁ」
と告げると、
「鈴音か?ちょっとわしの部屋に来なさい!」
じいちゃんの部屋からそんな声が聞こえてくる。
なんだろう?
そう思いながら、脱いだ草履を揃え、急いでじいちゃんの部屋へと向かった。
廊下を進み、じいちゃんの部屋の前に着くと、
「来ましたよぉ」
と言いながらスッと襖を開ける。
「来たか!ほれ!こっちへ来なさい!」
心なしか弾んでいるじいちゃんの声に導かれ、私はじいちゃんの隣へと足をすすめた。
「どうしたんですか?」
私がそう尋ねると、
「お前さんに渡すものがある」
そう言ってじいちゃんが箪笥から取り出したのは
「…っ!」
桃色と水色のちょうど中間のような紫陽花色の、鱗文模様の羽織だった。
「これを着て行きなさい」
そう言ってじいちゃんが差し出した羽織を、震える手で受け取った。