第8章 響かせろ、もっと遠くまで
最近ただでさえ忙しい天元さんの時間を少しでも奪ってしまうことは憚れる。けれどもきちんと聞かないことには、今後私がしたいと考えている事が出来なくなってしまう。
それじゃあ…何一つ変われない。きちんと…言わないと。
そう思った私は天元さんの座っている正面まで足を進め
「前、失礼します」
「なんだよ改まって」
座卓の上にお土産の甘味が入った袋を置き、天元さんのちょうど正面に座らせてもらった。
「わぁ!鈴音ちゃんもしかしてお土産を買ってきてくれたんですか!?私久しぶりに頭を使ったもんで甘いものが食べたいと思っていたんです!食べてもいいですか!?」
そう言いながら須磨さんが台所から私の隣へとやってきた。須磨さん達のために買ってきたお土産なのだからもちろん私は
「もちろんどうぞ!みたらしと餡子の2種類なんですが、とっても美味しかったので、きっと疲れた頭が癒されますよ」
そう言ってズイっとお団子の入った袋を須磨さんに寄せるように押した。けれども
「ちょっと須磨ぁ!あんた本当に空気が読めない奴だねぇ!鈴音が天元様と話したそうにしてるのわかんないわけ!?」
そう言いながら
スパーンッ
「痛ぁい!!!」
小気味のいい音を立て、例の如く須磨さんの頭をその手のひらで叩いた。
「わぁぁぁん!まきをさんがぶったぁぁぁ!天元様!今の見ましたよね!?」
須磨さんはまきをさんに叩かれた部分を手で抑え、私の隣から天元さんの方に逃げるようにサッと移動し、その太い腕にしがみついた。
「…悪ぃ。丁度目ぇつぶってたわ」
何処を見ているのかわからないような遠い目をしながらそう答えた天元さんに
…絶対嘘だ
そう思いながらも、まぁいつも通りの光景だなと思いながらその様子を見守る。
「もう!天元さんの目は節穴ですか!?」
そんな風に須磨さんが言えば
「ちょっと須磨ぁ!天元様に何言ってんのよ!?っていうかその腕離しなさいよ!」
まきをさんがそれに食いつくのは当然のことで
…うん、いつもの光景
そんないつもの流れに安心感すら覚えた。