第1章 始まりの雷鳴
「私ももっと善逸みたいに、深くて質のいい雷の呼吸を使いこなせるようになりたいんです」
「鈴音…」
「姉ちゃん…」
心なしかウルウルとした目で私を見るじいちゃんと善逸に
「…えへへ」
急に気恥ずかしくなってしまった私は、照れ隠しをするように頬を人差し指で掻きながら笑ってしまうのだった。
そんな私たち3人の様子を見た鉄穴森さんが
「素晴らしい師弟愛ですね」
っと言ったのが
「…っはい!」
私はとても誇らしかった。
鉄穴森さんを見送ると、善逸と私は、いつか二人でお互いの耳のことを打ち明けあった場所へと自然と向かっていた。
あの時と違い、桃の木に実はひとつもなっておらず、ただ鮮やかな緑と、木々の心地よいせせらぎが聞こえてくる。
二人並んで岩に座り、その音を聞いているととても穏やかな気持ちになった。
「また一緒に、桃が食べれるといいね」
思い出すのは、あの日の果汁たっぷりで甘くて美味しい桃の味。
私がそんなことを言うと
「やめてよそんな風に言うの。もう食べれないみたいじゃん!」
「違う違う!そんなつもりで言ってないから!」
そう否定したのにもかかわらず、善逸は怒ったように黙り込んでしまった。
そこで会話は途切れてしまい、木々のせせらぎだけが私の耳に心地よく響く。鉄穴森さんが来ていると気が付いた時から、善逸の様子がおかしいことには気がついていた。
「善逸、私ね…」
隣に座る善逸との距離を詰め、下からその顔を覗き込むように体制を低くする。
「じいちゃんに助けられたあの日…別に死んだって良いって思ってたの」
「…っ!」
私のその言葉に、善逸の顔がぐにゃりと歪む。
「…なんでそんな「でもね!」…っ!」
私は善逸の言葉を遮り、
「今は、そうは思わない」
その焦茶色の瞳をじっと見据える。
「あの日、自分を必要としてくれる人がいなくなって、私に生きている意味も理由もないって思ったの」
善逸は私のその言葉を聞き、とうとうその目からボロボロと涙を流し始めてしまう。私は手拭いを取り出し、ポンポンと優しくその涙を拭き取る。