第8章 響かせろ、もっと遠くまで
「…っ謝らないでよ!謝って欲しいんじゃないの!俺はね、姉ちゃんに幸せになってもらいたいだけ!両想いなのに遠ざけるなんて意味わかんない!もったいない!俺も禰󠄀豆子ちゃんと早くそうなりたい!」
この話をして善逸にお説教されてしまうとは夢にも思っておらず(最後の一言はまぁ別として)、
「…なにその顔?鳩が豆鉄砲食った見たいな顔しちゃってさ」
そう言いながら善逸は訝しげな表情で私の事を見ていた。
「…いや…だって…まさか、私に負けず劣らず自分嫌いの善逸に…そんな風にお説教されるとは思ってなかったから…」
私はてっきり
わかるわかるよぉ!あんな人無理だよね!
俺と一緒に綺麗さっぱり
忘れる方法考えよう!
とでも言ってくれるのだと思っていた。
「…善逸は…私の事、身の程知らずって…思わないの?」
私のその問いに
「はぁ?思うわけないじゃん」
善逸は僅かにムッとした様子でそう答えた。さらには
「ていうか、もしそんな奴がいたら俺絶対に許さないし」
そう言って、まだ誰からもそう言われたわけではないのに、その相手をすでに想像でもしているのか、いつも比較的穏やかな表情を浮かべているはずの善逸のそれは、眉間に皺が寄り険しいくなっているように見えた。
あの優しい善逸が私のためにそんな風に怒ってくれる。
…やっぱり…善逸は最高の弟弟子だな。
それが堪らなく嬉しかった。
右手に持っていたお団子をお皿に置き、空いた両手を善逸の眉間に出来てしまっている皺へとのばすと
ぐぃーっ
「ちょっと!痛いんですけどぉ!」
「だって、顔が怖いんだもん」
それを伸ばすように両方の親指で伸ばした。
たいして力を入れていない筈なのに、”痛い””放して”と騒いでいる善逸に
「…ありがとう」
私が呟くような声でお礼を述べると
「…お礼なんていいから、姉ちゃんはもっと姉ちゃん自身の事を好きになって!」
善逸が、ほんのりと頬を赤く染めながらそう言った。